その3
「あの男を殺したのよ!あの男をころしたのはあそこに座っている馬鹿な女じゃないわ!
どう、これで満足した。あんた!」と、証人は裁判員席の橋本を睨んで言った。
法廷が騒然とし、裁判官が「静粛に」と叫んだ。
「あの若くて魅力的だけれど馬鹿な女は、パニックになって自分があの男を何度殴ったのかも満足に覚えていないのよ。浅はかな警官に“殴ったのは五回だろう”と聞かれて、素直に認めてしまった。検事も検事よ。馬鹿よ!何も確認しなかった。
世の中、馬鹿ばっかりよ!」
検事が頭を抱えた。
「あの男はあの女が石で殴った後も違いなく生きていたわ。あの男を最後に殴ったのはこの私よ。それもあの女があの男を殴った石を使って、殴ったのよ。私は利口だから、ハンカチで石を握ってあの男を握って殴ったわ。どう?私、頭良いでしょう?
・・・」
暫らくの後、裁判員橋本が証人に尋ねた。「被害者とあなたは何か関係があったのですか?」
「私は半年前に、私がこっちに来てすぐに、あの男にレイプされたのよ。
あの男は、私を犯した後言ったわ。“お前みたいな太った醜い女、誰も抱いてくれない。おれに抱かれたことを感謝しろ。また、どこかで会ったら抱いてやる、タダで”そして、あの男は下卑た笑いを浮かべ、私の体から降りたわ。
あの日、あの時、私はあの女が男に林の中に引き込まれた時、男があの男だと直感したわ。
あの女が飛び出してきた後、林の中をのぞくと、あの男がうごめいているのが見えた。私はハンカチであの女が捨てた石を持って林の中に入った。でも、怖かった私は木の陰に隠れながら近づいた。きっと、その時ハゼノキに触ったのね。
でも、私、誓うわ。あの時、あの男が私に命乞いをしたら、救急車を呼ぶように頼んだら私はあの男を殺さなかったかも知れない。しかし、あの男はいきなり倒れたままで、私の足を掴んで引き倒し言った。『あの女の代わりに、お前を抱いてやる。お前みたいな、醜い女、おれ以外、誰も抱いてくれないぞ。お前で我慢してやる。感謝しろ』
そして、また、また下卑た笑いを浮かべた。
あの男、私を数か月前。レイプしておきながら、私のことなどすっかり忘れていた。そして私を侮辱して、また、レイプしようとした。
もう、私は我慢できなかった。
それで、持っていた石であの女が殴った男の頭をもう三度殴った。男が完全に死んだのを確認して、石を元の位置に返して、携帯で110番通報をした・・・。
これがあの夜に起きた全てよ。
でも、あんた、眠っていたのでないの?」
裁判員橋本は肩を竦め、苦笑したが何も答えなかった。
「裁判官」検事が言った。「検察としては、この様な状況となりましたので、ここは一旦、本法廷の休廷を申し入れます被告は手続き終了後、釈放したいと思います。
また、証人を緊急逮捕し、取調したいと思います。」
「弁護人としては、それに何の異議もありません」
山田裁判官は休廷を宣言した。
裁判員橋本圭一郎はつぶやいた。「さて、帰るか?」
しかし、彼は腕時計を見て、再び呟いた。「でも、このまま帰ったら、うちの課長、わめくかな?『用件が早く終わった会社に出てこい!今日は特別休暇なのだ』って・・・」
その時、裁判員橋本圭一郎は視線を感じた。視線を感じる方を見ると、それは記者席のからのものだった。
裁判員橋本圭一郎は肩を竦めた。今日はそう簡単には帰れないと思った。




