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その1

「裁判官」と栽培員の橋本圭一郎が突然言った。「証人に幾つか質問したいのですが?」

「えっ・・・?」山田裁判官は正直驚いた。裁判員橋本は証人が証言しているあいだ船を漕いでいたようだった。それが裁判員に疑問があったら質問するよう促し、誰も質問する者がいないと、橋本は顔を上げてそう言ったのだった。

「どうぞ!」

「証人は被害者とお知り合いですか?」

「えっ・・・」証人は驚いた。証人は目を見開き、橋本を見据えた。

 証人は何故か動揺していた。それでも証人は何とか答えた。「ま、全く知らない人です」

 裁判官は思わず身構えた。それは、検事や弁護士、橋本以外の裁判員も同じだった。

 しかし、橋本は質問を変えた。「証人はどちらの出身ですか?」

 証人はますます困惑し、動揺した。証人が救いを求めるように山田裁判官を見つめた。

「裁判員!裁判員は証人に何が聞きたいのですか?質問の主旨が、正直、分からないのですが?」

「裁判官、申し訳ありません」と、橋本が言った。「私には疑問が幾つかあります。この様な状況では評議に参加することは出来ません。

お願いです、もう、二・三の質問だけです」

「分かりました。証人は答えてください!」

 裁判官はこれから何かとんでもないことが起きる様な気がし、検事は悪い事が起きるような気がし、弁護人は興奮した。一発逆転になるかも知れない。

「福島です。一年ほど前に勤めていた会社をリストラされたことを知ったこっちに住んでいる母方の叔父が、仕事を見つけてくれました。もともと、私は寒いのは苦手で、半年前、喜んで引っ越してきました」と、証人は答えた。

「なるほど!

 証人は事件がおきた時、五月××日、夜の七時半ころ、あなたは被害者が被告を後から抱きかかえ林の中に連れ込むのを見た。あまりの恐ろしさに立ちすくんでいると、暫らくして被告が林から飛び出してきて、自分が出てきた方を振り返り、それから持っていた石をそこに放り出した。被告はあなたの方に駆け出してきて、あなたの顔を見ると、顔を背けて走りさった。その時、被告の服装はひどく乱れていて、被害者に暴行を受けかけたと思った。

 被告が飛び出してきたところまで行って、林の中を見ると被害者が倒れているのが見えた。

 それで、携帯で110番通報をした・・・。

 間違いありませんね?」

「えぇ、間違いありません」

「確認ですが、あなたは林の中には入っていない?」

「私は林の中には入っていません。道からあの男が倒れているのが見えました。あの男はピクリともしなかった。あの男が死んでいると確信しました。

 そして、実際、警察が死んでいるのを確認しました。

 その女の人が、自分の身を守るためだったかも知れませんが、あの男を殺したのに間違いありません」

「それはいいのです。

 あなたは、林の中には入っていない。間違いありませんね!」

「間違いなく、林のかなには入っていません。入る必要がありませんから!」


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