夜明け
水平線から太陽がのぼり、今日もまた夜が明ける。海の近くの高台にある一軒の赤い屋根の家の窓から、一人の少女が海を眺めている。
「毎日が同じことの繰り返し。」
そう呟いた少女はカーテンを閉め、ベッドに入ると目をつぶり眠りについた。
夕方五時、目ざまし時計のアラーム音が部屋に鳴り響く。まだ重たい瞼を薄く開け少女はアラームを止める。ベッドから出てあくびを一つ。カーテンを開けると寝る前に見た風景と同じ。今度は夕焼け、太陽が水平線に沈む。
シャワーを浴びて着替えをすませる。まだ乾いてない髪をタオルで拭きながら、冷蔵庫を開けペッドボトルに入った水を飲む。水分が身体にしみわたるような感覚。
奥の部屋から声がする。
「ちょっとー、また学校サボったの?」
「うん。」
少女の母親が、あきれ顔で少女に言う。
「頑張って学校行きなさいよ、いじめられてるの?」
「違うよ、ただ…学校ってつまらないんだよね。みんなくだらないことで笑ったり、可愛くなるわけでもないのに化粧したりさ。みてて恥ずかしくなるよね。」
母親はため息をついて、なにも言わずテレビの方を向いた。少女は、冷蔵庫に入っていたチョコレートと水を持って二階にある自分の部屋へすたすたと戻って行った。
バタン
部屋のドアを閉めると、クローゼットを開ける。中には新品同然の制服が掛けてあった。制服を手に取ると胸ポケットから名札を出す。
「香川花…変な名前、変な名字。そして変な制服。」
胸ポケットへ名札をしまうと、制服をクローゼットへ戻した。机の上にあるパソコンを起動させる。花は、窓を開け外を眺める。むわっとした熱気が花を包みこみ、耳をすませると、波の音が聞こえる。
「今日も暑かったんだろうな…学校はどうだったのかな?またどうせつまらない授業ばかりだよね。」
しばらく外を眺めていると家の近くの公園に、高校生らしき女の子が二、三人集まっているのが見えた。
「あっ…うちの学校の生徒じゃん。こんなとこで何してんだか…。またどうせ恋愛話とか愚痴だろ。」
五分ほどすると少女たちは解散していった。その姿を見届けてから、花は窓を閉め扇風機のスイッチを入れる。パソコンの置いてある机に向かい、椅子に座るとカタカタとパスワードを入れてインターネットを開く。そして、あるホームページを開く。
「H・K」
そう題されたホームページの管理人は花であり、H・Kは花のイニシャルである。ホームページには花の日記や花が撮った風景の写真が公開されており、一日に五千人程度のアクセスがある。
「さて、今日も日記書きますか。」
七月一日
今日から七月です。私は相変わらず学校には行かないでのんびり過ごしています。夕方に起きて明け方に寝る。同じ高校生とはま逆の日常。決して、学校が嫌いだったり、いじめられてるわけじゃないよ。ただ、学校なんてつまらないし自分のためになるか分からないだけ。同級生に友達は居るけど、みんな恋愛に忙しいみたい。私は…恋愛なんてくだらないことしてません。友達の恋愛をくだらないとは言ってませんよ。自分が恋愛をしていることがくだらないって言ってるだけ…。それよりも、写真撮っている方が自分らしい気がする。今月中に、一回だけ学校行こうと思ってます。どうした!ってびっくりしますか?な~んか今そんな気分なだけ。気分がのているうちに一回行こう。じゃないと一生行かない気がします。ではでは、今日はこの辺で。
一つため息をつく。冷蔵庫から持ってきたチョコレートを口に入れると甘い味とチョコレートの香りが広がった。