風の又三郎
「ママ、あれ、なあに?」
子どもたちに言われて、真白はふと足を止めた。
母屋の中庭で遊ばせていたてまりとゆうやは、空の方を指さしていた。
真白が見上げたその瞬間、雷のような、空をつんざく音が鳴り響いた。
ー飛行機が墜ちていく・・・。
確かに真白の目にはそう見えた。
けれど意識が遠のいていく・・・。
風の又三郎は、宮沢賢治の短編小説だが、これを読んでもいないくせに勝手に父親が、「お前は風の又三郎じゃな」と言った。
「何で?」と、大怎喜市が聞くと、「風の便りばっかり読んでるからじゃ」と父は答えた。
「つまりじゃ」と、父親は続けた。
「活字ばかり読んでいるからじゃ」と言った。
テレビ局入社一年目の時、「お父さんは帰るように」と、ふざけて同僚に言われた。
初めてのコラムに感銘を受けたと、雑誌社に呼ばれた時、「何だ、こんな若僧か」と、ボツにされた。
そんな大怎喜市にも、思いがけず栄転が起きる。
大阪の関西テレビに大抜擢されたのだ。
山口の又三郎、大怎喜市は、ナップサック一つ背負い、意気揚々と大阪に進出する。
劇団を一つ抱える。
結川将暉は、京都劇場から手を引いたのだが、名古屋へ進行しようとしていた矢先、映画の話が舞い込んだ。
映画とは、フィルムを駆使したものだが、ビデオからDVDという光ファイバーに移行しようとしたのだが、多くの精神病が増えたことで待ったがかかった。
日本の文化は、墨絵なのだが、全てがデジタルに移行しようとしていた。
だがしかし、ここ、「古都」としての京都は、特別だった。
来週の伊勢志摩サミットを抱えて、谷田が言ったのは、「静岡にあえて本拠地を構えたらどうだ?」ということだったが、それは、あえなく却下された。
富士山は、いつ噴火するかわからない。
谷田は、飛行機の中から富士山を見た。
美しかった。そして、それゆえに、隠すことのデメリットを思い、すべてを公開することで、出て来る人間の心、結局谷田は、アメリカウィルスミスに迎合した。
祇園のおかみ、静香は、林黄に誘われた時、本当のところ、浮足立っていた。
「酔うには、焼酎だよ」という、林黄は、結川将暉が名古屋への進出を考えていると言ったのだが、静香は、言った。
「うちは、実は、東京じゃけ。些細なことでにっちもさっちも行かなくなった。うちの得意は、歌じゃが、京都に来てじゃがそれがいっそう顕著になった。パトロンは企業じゃけ」
それに答えて、林黄は、「今後、京都はすだれて行くじゃけ。その前に俺と組んで、日本を潰すのはどうじゃけ?」
どう答えていいだろうか?
このダブルブッキングは、仕組まれたものだが、台湾省とは穏やかではない。
静香は、浅草生まれだったが、天涯孤独であり、子供を身ごもった時でさえ、誰にも迎合しなかった。
ふと、祇園が中国マフィアのドンと組んだことのことを思い出した。
「うちの父は、無残な死に方じゃった。じゃがじゃけ?うちは、人の死ほど滑稽なものはないじゃけと笑った。林黄様のねらいは、花じゃけ?どうじゃろうか?ここは、その剣をおさめてじゃが、黒澤組の味方になってくれんじゃろうか?」
歌舞伎も詩吟ももう受けん。
滑稽なほどに、舞台と称した劇団は、その観客席の客に対して、映画よりも強い衝撃を与えている。
「これは、一本取られたな」
林黄は言った。
ここで勝利かと思われたのだが、結川将暉はただではすまなかった。
静香は、蛍のコーラを飲みながら考えていた。
(この世界は間違っている)
くらくらする頭は、何だか幸福を呼び戻す。
伊勢志摩サミットは来週。
黒澤と花、楠木と咲坂、そして皆伐。
「河原町のちゃちゃは、最初から見えていたじゃけ」
静香は、急におかしなったのだが、舞妓の一人が、「おはようございます」と出勤した声にハッとした。
今夜は、静香と蛍が仕切る。
ここ祇園は、一見さんなどお断りとする。
「京都は特別じゃけ」
静香はそう言ったのだが、何だかふつふつと笑いが湧いた。
舞妓は、政治家の一人に取りいようとほのめかす枕を、静香は、OKとした。
そうして飲み干す日本酒は、ただ酔うためにあった。
「楽しいばかりじゃないじゃけんど」
静香のパトロンは、谷田が引き受けた。
花のためである。
京都祇園は、もうしばらく花の性質を持ってして続いた。




