一話 世界の終わりと始まり
「うるっせぇ!入ってくるな!」
「...俺も...俺なりに...やってきたはず...
クソが...」
「いつでも大丈夫だからね、お母さん、いつでも待ってるから」
ドア越しに優しく声をかけてくれる母に俺はすぐ側にあったコップを投げつけた。
割れるコップ。
驚く母。
冷静になり現状を把握し直した俺。
また自分が嫌になる。
その繰り返し。
どうにかなる、そう楽観視して生きてきたツケなのかもしれない。
傍から見れば俺は努力していないように見えたのだろう、俺なりに努力して進めてきたはずなのに。
自分の感覚と周りの評価の乖離。
それが俺を苦しめ続けた。
この部屋から出て、一歩進めたらなにか変わるのだろうか。俺がまたやり直させたら、より良い人生を歩めたのだろうか。
そう淡い期待を抱きながら、俺は布団に潜り込む。
「俺って...なんなんだろうな、ほんとに」
自分を冷笑するかのように呟き、眠りについた。
転生すれば、回帰すれば、俺はまたなにか上手くやれる。
そう信じていた。いや、違うな。現実を俺は知っていたのだろう。
中卒ニートが見た事もない辺境でやり直せるわけがない。
やり直したところでまた同じ事だ。
こうなる未来は見えている。
だが、それでも今よりか、現状よりかはいい人生が歩めるハズ。
そんな思いを募らせながら、自室で毎日引きこもっていた。
そんなある日...頭が割れるような頭痛と共に目が覚めた。
「あ〜クソだるい...なんでだ...よ.....?」
俺の目の先には一面緑の草原が広がっていた
心地の良い涼しい風。
草と土の匂いにはどこか懐かしさまで感じる。
「フハッ...やっと来たかよ...異世界」
マジで来ちゃったって言うのか?
そんな馬鹿な。
俺があんだけ夢見た異世界。
そう思い立ち上がろうとしたが、足が震えている。
手も唇も震え、心拍数も上がっていた。
...そうだ、俺は怖いのだ
40歳ニートで知らない土地、知らない世界
そんなんでやって行けるわけが無い。
俺は分かっていたのだ。
「...動けよ!足!」
俺は膝を強く叩きながらそう叫ぶ。
そうしながら1歩、2歩、歩き進めて行った。
そういえば俺の服装や見た目は全く変わっていないようだ。やつれた顔のままだろう。触ったらわかる
俺は全力で足に力を込め1歩進んだ途端、周りの風景が一瞬で変化した。
ここは……俺んちの前だ。
「どういうことだ?」
困惑していると、フッと消えるように気を失った。
目を覚ますといつもの見慣れた俺の部屋がそこにあった。
「クソッ……訳わかんねえ夢見させやがって」
ん……?俺の部屋の材質こんなんだったか?
まあどうでもいいな。
そのまま俺はふて寝した。
異世界でやり直せると思ったのによ。
つまんねえな
その後はいつも通りの生活を送っていた。
昼に起き、親に飯を貰い、ゲームをして寝る。
それを続けていたある日。
明らかにおかしい、なんだよ、意味わかんねえよ。
何故か知らない部屋で俺は目覚めた。
部屋の大きさや窓の位置なんかはそっくりだが、俺が知っている部屋ではないことは確かだ。
俺はビビりながら慌てて外に飛び出すと、そこには知らない景色が広がっていた。
「クソッ!なんだよここは、日本はどこいったんだよ!」
焦りながら家に戻り母に会いに行くと、母に似た別の人物がそこにいた。
その人はびっくりした顔をして静止した。
知らない人物の筈なのに、どこか懐かしさを感じる。
その人は叫ぶわけでも、なんでもなかった。
それで気づいた。
ここはもう俺の知っている世界ではないのだと。
全てが変化しているのだと。
少し歩き色々見渡してみたところ、人の変化が特に大きかった。
獣人や、エルフ、ドワーフやオークになったものまで幅広くいる。
彼らは共存関係にあるようだ。敵対する様子も、それぞれを変な目で見るような偏見は全くなかった。
「俺はこの世界でどうすればいいんだよ…」
俺は今まで事実、全く何もしてきていないのだ。
社会の厳しさも努力もなにも知らず生きてきた。
そんな奴が何も知らない変化した世界で生き残れるとは到底思えない。
……だからと言って俺に戻る場所はもうないのだろう。
親は別人になり、家ごと変化した。
あの部屋で毎日自堕落に過ごすことはもう叶わないのだろう。
「あれってもしかして……ギルドか?」
俺はギルドを見つけた。
文字は日本語ではない。
その部分だけ世界に適応したのか、読めるようになっていた。
俺は恐る恐るギルドの扉を開けた。
獣人とかオークとかにぶん殴られるかも……そんな気持ちを抱えながら
だが、そこには静かな市役所のような雰囲気なものがあった。
目の前には受付、その横には壁に張り巡らされたクエストの紙。
周りではパーティーに勧誘したり、仲間が殺されて1人になった者もいる。
本当にゲームというか……アニメのような世界になってしまったようだ。
ちょっと楽しみでもあり、今後の事を考えると嫌になる自分もいる。
そう言えば、お金をポケットに入れていたはず…
ポケットをまさぐると、変なコインが10枚ほど出てきた。
金色に光ってるものや銀色に光っているものまで。
おそらくだがこの世界の通貨だろう。
とりあえず、野垂れ死ぬことだけは無さそうだ。
ひとまず安心と言ったところか……
一旦俺は出店に向かい、大体の相場を知ることにした。
大銀貨1枚で日本円で言う1000円ほど。
小銀貨は500円
金は1万円と5000円という感じだった。
店の値段を見たとき、銅貨とも書かれていたため
銅貨も存在するのだろう。
クッソ……足が痛てぇじゃねえか。
なんでこんなことしなきゃいけないんだ……
普段歩かない俺にとっては、この短い散歩道程度の距離であっても、かなり足にダメージが入った。
体重も相まってか、足が酷く浮腫んでいる。
今日は一旦ここで終わりにし、宿屋で休息を取ることにした。
ギルドから出店に向かう際見つけた宿屋に入り、1週間ほど寝泊まりをするための金額を払った。
この世界の宿屋はとんでもなく安価だ。
5000円で10日ほど泊まれるのだ。
正直お金を大半持っていかれるようであれば野宿にでもしようかと思っていたが、そこは気にしなくていいようだ。
俺は部屋にある椅子に座って机に紙を置き、ペンを走らせた。
『日本…いや地球が変化して一日が終わった。
この世界はアニメやゲームの中と遜色ないほど、ファンタジー感に溢れている。
俺がこれから書き残すことは今後の目標と言える。
俺のような人間にできるとは到底思えないが、他の人も似たような目に遭っている可能性はある。
そのためとりあえず人を探す。
ギルド、居酒屋、出店なんかでそれらしい人を探してみよう。
それが第一だ。
2つ目はこの変化が起こった原因の特定。
こればかりは情報がないため、図書館にでも行こう。
この世界の全てが変化しているのだとしたら図書館にある情報も変化しているはずだ。
それと、この変化を人が起こしたものか、自然的なものか。
人が起こしたと言ってくれた方がまだ辻褄は合う気がする……それでも変だがな
3つ目 特定後、その原因の解消、排除
人が引き起こしたものだとしたら説得……または殺害。
自然的なものだとしたら……俺には手がつけられないだろう。図書館で情報が手に入った場合どうにか出来る可能性はあるが……期待するだけ無駄だろうな。
この3つを経て、俺は元の世界に戻る……戻すつもりだ。
2XXX年 4月 15日 坂本彰人 』




