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アイリスの瞳  作者: たけひろ
第一章:新しい世界に散る桜
8/14

7.メッセージに返信がありました

User: TANAKA TORU [ID: JP-58D2Q7VA-A]

Date: 2030-04-09 (JST)

Active Module: POLICE


[LOG ENTRY]

・・・

13:34:12 — Conversation log saved and synced to server.

13:34:14 — Message received. (Source: Police Department)

13:34:14 — Delivering message content to user.

・・・

________________________________________


[田中様、先ほどの問い合わせに返信がありました。二人とも今は時間を取れそうです]

「了解、ありがとう」


SOPHIAからの報告に返事をしながらセントプレイス葵原から出て来た俺達を迎えたのは、相変わらず満開に咲き誇っている桜並木だった。

先ほどまで管理人に話を聞いていたのだ。幸いすぐに捕まり、詳しい話を聞く事ができた。


「ソフィ、管理人さんとの話、要点まとめて署のサーバーに保管しておいて」

[了解。…全文と、簡単にまとめたものを保管しておいたわ、詩織]

「ありがと。…テツ先輩、何か気になる事はありましたか?」

「必要な事は全て聞けたと思うし、問題点も無かった。お前の人当たりの良さもしっかり仕事していたな。向こうも話しやすそうだった」

「なら良かったです。これで木本の供述についてはほぼ確認が取れましたね」


管理人は大友康夫(おおともやすお)という68歳の男で、管理会社から派遣され、ここで働いて13年にもなるそうだ。

このセントプレイス葵原は葵原市ができた直後の2009年に建てられた物で、こう言っては何だが大して設備が良いとは言えないが、それだけに家賃もお手頃で、特に単身者に人気でそこそこ部屋は埋まっているそうだ。

大友は自宅がすぐ近くで便利という事もあり、管理会社の契約社員として管理人業務を続けているらしい。


彼は木本の事も知っていた。長年入居しているだけあり、世間話くらいは交わす仲だったらしい。

記録も確認したが木本の入居は9年前、2026年6月の事で、それ以降ずっと同じ部屋に住み続けている。


ここは元々喫煙OKのマンションではあるが、木本は入居段階で改めて喫煙について確認しており、ベランダで吸いたいという要望もあって最上階の角部屋を希望したそうだ。

近所とは付かず離れずで付き合っていたが、性格は少し大雑把な所があったようで、ゴミ出しのルールを間違えて何度か注意をした事はあるらしい。しかし言われたら素直に直しており、トラブルと言うほどでもなかったようだ。

また大友もたまに外から見かけていたようでベランダでの喫煙も知っていたが、手すりに灰皿を置いていた事までは知らなかった。さすがにそれを知っていたら注意をしていた、と言っていた。


なお桂弓彦の写真を見せてみた所、なんと大友は桂を知っていた。

だがマンション管理人としてではなく、私用で市役所に行った際に会ったようだ。

なんでも今年の1月に市役所で年金の手続きをしようとした時、SOPHIAの操作に苦戦していた所を桂に助けられたらしい。だが接点はそれだけとの事だ。


大友が話好きだったのか中原の聞き出し方が上手かったのか、それとも単に若い女性と話すのが楽しかったのか、随分スムーズに話してくれた。

まぁ、ここは中原のお手柄という事にしておこう。おかげで木本の周辺環境については裏取りできたと言って良い。


「さて、次はどこへ行く?中原」

「それも私が決めるんですか?…うーん、先に桂弓彦の情報を集めたいですね。彼の両親は共働きらしいですし、先に市役所でしょうか?」

「なぜ両親が共働きだと後回しなんだ?」

「そりゃ働いているなら家にいないだろうし、職場をそれぞれ回るより帰った後に訪問した方が、効率が良いと考えたからです」

「アホ。息子がこんな事になったのに、悠長に働いているわけないだろう。もう問い合わせしておいた、桂の両親は二人とも今は病院にいる。遺体確認や今後の話で忙しそうだったから先にこっちに来たが、今は時間が取れるそうだ。帰られる前にそっち向かうぞ」

「……納得しましたが、テツ先輩にアホと言われると非常に悔しい気分です」

「そりゃ良かった。後輩の役に立てて何よりだ」


桂が搬送された病院は、ここからそう遠くない総合病院だったはずだ。まぁ、中原は救急車に乗って付き添いまでしたわけだし、迷う事は無いだろう。

予想通り車に乗り込んで15分もしないうちに到着した。

病院に入って問い合わせると、向こうも中原の顔を覚えていたのだろう、スムーズに場所を教えてくれた。


「中原。お前なら大丈夫だと思うが、向こうはついさっき息子を亡くした両親だ。二人とも仕事を途中で放り出して駆け付けるって事は、少なくとも家族仲は悪くない。下手な事言って怒らせるなよ」

「はい、わかっています。テツ先輩は自分の事はぶっきらぼうなのに、なんでそういう所は気を利かせられるんですかね」

「やかましい。…いた、おそらくあの二人だ。SOPHIA、録音してくれ」

[承知しました]


霊安室のすぐ近くのソファに、60歳前後と思われる男女が静かに座っていた。二人とも一言も喋らず、その視線もどこか虚ろだ。

近づいていく俺と中原の足音に気付いたのか、男性の方がはっとした様子でこちらに顔を向け、女性の肩を叩いて一緒に立ち上がる。

こちらも中原に目配せをし、一緒に警察手帳を取り出しながら声をかける。


「葵原中央署の中原と申します。桂弓彦さんのご家族の方ですね?この度は、ご愁傷様です」

「同じく田中です。ご愁傷様です」

「…弓彦の父の、桂裕一(かつらゆういち)と申します。こちらは家内の麻里(まり)。聞く所によると、中原さんが付き添って病院に来て頂いたとか。弓彦に代わり、お礼申し上げます」


そう言うと桂裕一と桂麻里は、揃って深々と頭を下げた。

声に覇気はなく、動きもどこか緩慢だ。無理もない、唐突に息子を奪われ、それも悪意を持った誰かの仕業なら恨む事もできただろうが、実際は不幸な事故と見られている。

感情の向け先もわからないのだろう。


「そんな、警察官として当然の事をしただけです、頭を上げてください。…お辛い所申し訳ないのですが、いくつかお話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「…はい、大丈夫です。私達で分かる事であれば、なんでも」

「ありがとうございます。ではまず、事故現場はご存知ですか?弓彦さんはよくあの道を通っていたのでしょうか?」

「はい、あの桜が綺麗な道ですよね?弓彦は健康のためにも基本的に徒歩で通勤していたのですが、あの道は車も少なく気に入っていたようです。少し遠回りになるのでたまにしか行かないとは言っていましたが、今の時期は桜も見頃なので、それで…行ってしまったのでしょう…」

「辛い事を思い出させてすみません。最近の弓彦さんの様子に何か変わった事はありませんでしたか?」

「特に何も。…ああ、大した事ではありませんが、半年ほど前から同じ職場の女性の事が気になっていたようです。もういい年齢ですから赤裸々に話す事はありませんでしたが、家でよく話題に挙げるようになっていましたから、母さんが多分そうだ、と」


桂麻里に視線を向けると、感情の抜け落ちた表情ながら、ゆっくりと頷いた。


「その女性のお名前はわかりますか?」

「安藤さんと言っていました。お会いした事は無いのでお姿は存じ上げませんが」


これもログ解析の情報と合致する。

中原もそれを確認済みのようで、それ以上の追及はしなかった。


「気になっていた、との事ですが、その内容や、具体的な行動についてご存知ですか?」

「弓彦の部下と聞いていますが、話していて楽しい、笑顔が素敵、というような事を、以前酔った際に漏らしていました」

「部下の方だったんですね」

「確認まではしておりませんが、確かそう言っていたかと。また、何度か食事に誘ったような事は聞いていました。…とは言っても、上手くいっていなかったようですが」

「なるほど。ありがとうございます。参考にさせて頂きます」


どうやら桂のアプローチはあまり上手くいっていなかったらしい。

それからいくつかの質問をしたものの、やはり桂弓彦の行動や習慣に異常は見つからず、今日に至るまでずっといつも通りだった、という事を確認するだけになった。

医者がそろそろ…という視線を向けてきたのを機に、退席する事にした。


「ソフィ、今のログも保存をお願い。あと、桂のログから安藤へのアプローチ履歴を調べて」

[会話内容は保存しておいたわ。…ログ確認完了。食事に誘った回数は、同僚含めてのものを加えると過去100日間で7回、だけど二人きりで食事やデートに行ったログはなし]

「って事は、桂の片思いですね。さすがに恋人関係なら100日間全くそれらしい事が無いというのは不自然ですし」

「……ああ、その判断で良いと思う」


中原は的確に俺も気になっていた部分を確認してくれた。

食事の誘い、そしてそれが成功していない事も両親の証言と合致する。

少なくとも桂のログは過去100日間分を鑑識が簡易解析しており不自然な空白も報告されていないのだから、恋人関係ではないと考えるのが自然だろう。


「では次は市役所に向かう、って事でいいですか?テツ先輩」

「そうだな……」

「……どうしたんですか?何か気になる事でも?」

「いや、何でもない」


情報を得れば得るほど、ただの事故としか思えない。矛盾点が見つかるどころか、すでに分かっている事実に合致する情報しか出て来ない。

SOPHIAが浸透してから人々の全ての行動が記録され、完璧に整合性が取れる事はむしろ普通の事になった。


だが、なぜか今回は整合性が取れるほどに、違和感が主張を強め続けている。

木本も桂も、行動に不自然は無い。関連性も無い。じゃあ、俺はこの事件のどこに問題を感じていると言うのか。


(SOPHIA推進課。この街の大きな特徴が事件に関わっているのは、偶然か…?)


いや、一旦全ての調査が終わってからだ。

そう言い聞かせて、車に乗り込んだ。

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