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アイリスの瞳  作者: たけひろ
第四章:そして何も見えなくなった
36/37

35.随分とお疲れのようですが

User: TANAKA TORU [ID: JP-58D2Q7VA-C]

Date: 2030-12-09 (JST)

Active Module: POLICE


[LOG ENTRY]

・・・

20:11:08 — Incident records displayed.

20:11:08 — Video recording playback in progress.

20:11:08 — Vital signs indicate fatigue.

・・・

________________________________________


*****

User: KATSURA YUMIHIKO [ID: JP-A6M9R2KF-D]

Date: 2030-04-09 (JST)

――――――――――

・・・

[――7時よ、起きて。おはよう、弓彦さん]

「…くあぁ、おはよう、SOPHIA。今日の予定は?」

[今日は通常業務だけで、特に大きなタスクは無いはず。急いで出勤の必要は無いわ]

「オーケイ、じゃあまず朝ごはんだな――」

・・・

「――弓彦、今日は何時に家を出るんだ?」

「いつも通りだよ。父さんと母さんは先に出るでしょ?」

[弓彦さん、今日は桜が満開予定日だし、お父様と一緒に出て散歩しながら出勤したら?]

「お、そうなのか。…父さん、やっぱりちょっと早く出るよ。一緒に出よう――」

・・・

「――しかし見事に満開だな……安藤さんを散歩に誘ったら来てくれるかな」

[良いかもしれない!じゃあ、ベストスポットを探して映像に納めましょうか]

「いいね。良い感じの場所探してよ」

[わかったわ、調べてみるから少し待ってね――]

・・・

*****


(まぁ、そう簡単な話じゃないよな……)


捜査記録として保管された桂のログを延々と眺めていたが、さすがにもう疲れが限界だ。

目の周りを軽く揉みつつ時計を見ると、もう20時。12月のこんな時間、外は真っ暗だ。

すでに業務は当直担当へ引継ぎしてあるのだが、研修資料作りの準備と称して残業している所だ。


[田中様、随分とお疲れのようですが、大丈夫ですか?休息された方が良いかと思います]

「ああ、そうだな、さすがにずっと見ていくのはキツイな……」

[そもそも田中様のお作りになる予定の資料は、事件時の警察官の対応では?このようにログまで確認される必要はあるのですか?]

「……ああ、せっかくだからログのどのような点を見るべきか、というのも資料に入れられたらな、と思ってな」

[なるほど、そのようなお考えでしたか。失礼しました]


いや、SOPHIAの言う事も最もだ。だがその言い分を受け入れてしまうとログを見る言い訳が無くなるから、口から出まかせを吐いただけだ。

だがログを見るというのは口で言うよりはるかにキツイ。


何せ桂のログは被害者として押収されたため、100日分がデータとして保管されている。プライバシーモードで見えない部分があるとは言え、それでも結構な量だ。

もちろんログを隅々まで確認する事は基本無く、必要そうな所だけを抜き出して確認する。

だから当然俺も事件に関わりがあるであろう4月9日当日のログを見ているのだが……どこに違和感を覚えたのか自分でも分からないので、この日の分は端から端まで見るしかないのだ。


こういう全体のログを見て情報を抽出、まとめる作業は、普段は鑑識に任せている。

鑑識の解析に時間がかかるのも納得というものだ。もちろん何かツールを使っているのだろうが、それでも尊敬の念すら浮かんでくる。


「あー……疲れた。今日はこれくらいにしておくか」

[そうですね、資料作成がお急ぎで無いなら、本日はこの程度にしておいた方がよろしいかと思います]

「ああ、続きは明日にしておく」

[承知いたしました。それでは退勤処理をしてよろしいですか?]

「そうだな、頼む」


なお中原はすでに退勤済みだ。

課長に宣言した以上ちゃんと資料自体は作る必要があるので、その作成時にはアイツの文章作成能力も借りようかと思っているが、今は要点の検討と称した私的捜査の段階だ。中原にいられては困る。

今日は一人で作業をすると言ってさっさと帰らせた。しばらくはこの方便も通じるだろう。


(今日は成果無し。ま、そんな初日から分かるような事ならば、以前の事件の時に気付けたはずだ)


葵原中央署の玄関を潜ると、湿り気を帯びた冷気が這い寄ってくる。いつの間にか暗闇の中に無数の水滴が降り注いでいる。

ここの所降ったり止んだりしていたが、ついに本格的に降り始めたか。確か何日かは雨の予報となっていた。

朝SOPHIAに言われて傘を持ってきて良かった。傘を広げて、雨の中へ踏み出した。


(改めて事件概要を見てみても、やはり問題点は見つからなかった。予想していたとは言え、難敵だ)


雨が傘に当たる音を聞きながら、今日の調査を振り返る。

桂の事件概要としては、マンションの15階で煙草を吸った男が灰皿を落として、下を歩いていた男にぶつかった、というシンプルな事故だ。

基本的には桂弓彦と木本信介の行動だけで説明ができてしまう。

だからまずは、桂弓彦の行動を一つ一つ丁寧に確認してみようとログまで見始めたわけだ。


朝はいつも通り7時に起床、顔を洗ったり身だしなみを整えたりして、両親と一緒に朝食を摂る。

朝食は和食で、主に母親の桂麻里が準備しているが、サラダの準備などは桂弓彦も行っている。軽く過去のログも見たが、どうやら普段から食事作りの手伝いもしていたようだ。

そして朝食中、桜の満開時期である事に気付いてあの道に行く事を決めた。


(桂の視界を再確認してみても、途中で誰かが誘導しているような事も確認できなかったしなぁ)


鑑識からの報告でもそう書かれていたのだ、疑っていたわけでは無いが、自分で見てみてもそのような様子は全く確認できなかった。

家を出た桂は最短距離であの桜並木に向かっている。その間に誰か知り合いに会う事も無く、知り合いじゃない誰かが誘導している様子も無かった。もちろん道に迷うような事も。


そして桜並木に到着した彼は時間の余裕がある事を確認し、のんびりと桜を眺め始めた。

さらには今後安藤舞華を誘って来る事も想定し、ベストスポットを探してウロウロしていた所、たまたま木本の部屋の真下にたどり着いてしまった。

桂が最期に見たのは、確かに桜が美しく広がる光景だった。結果的にベストスポット探しは成功していたのだ。それが死の原因になるという皮肉な結果と共に。


(まったく、俺の違和感ももう少し分かりやすく主張してくれれば楽なんだが。我ながら気の利かない……)


疲れのせいかアホみたいな事を考え始めてしまう。

ダメだな、今日の所は諦めて、明日また頑張るとしよう。


「うし、気分を切り替えるとしよう。…SOPHIA、この雨はいつまで続く予定だ?」

[予報では明後日の深夜までとなっております。またその後急激に冷え込むと言われておりますので、田中様も体調にはご注意ください]

「じゃあ明日と明後日は朝のランニングは控えた方が良いな」

[はい、夏であれば多少の雨でも強行可能ですが、さすがにこの時期の雨の中走るのは止めた方が良いと思います]

「だよなぁ……通勤も面倒だ。……あ」


そろそろアパートが見えてきた、という所で駐車場が目に入って思い出した。最近車を出していない。

俺は車を保有しており、アパートの駐車場を借りて保管している。

だが普段全く乗らない。なぜなら職場である葵原中央署まで徒歩圏内だし、仕事中に車が必要なら警察の業務車両を使う義務がある。

プライベートでも市役所や郵便局のような所も車で行くほどの距離じゃないし、ドライブが趣味というわけでもないため、車が必要無いのだ。車を持っているのは、葵原に転勤になる以前、もっと山間部での勤務時代に必要で、その後そのまま持って来ただけだ。


「SOPHIA、俺最後に車乗ったのいつだっけ?」

[田中様の自家用車に、という意味であれば、11月28日の15時前後が最後となります。現在11日間程経過、そろそろバッテリー状況が不安になってくる頃合いですので、次回の非番の日に運転を推奨しようと考えていました]

「だよな、危ない。じゃあ明日は車で通勤するかな」

[それも良いかと思います。では明日の朝は車でのルートを検索しておくようにいたします]


別に車を使う予定があるわけでも無いのだが、使おうと思った時に使えないのも、バッテリーの電力供給のために業者を呼ぶのも面倒だ。早めに気付いてよかった。

だがとりあえず今はさっさと家に入って、雨と寒さで冷え切った身体を温めたい。

ゆっくりと風呂に入り、調査開始初日は何の成果も無く更けていった。35.随分とお疲れのようですが

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