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アイリスの瞳  作者: たけひろ
第三章:何度も見たような初めての光景
29/36

28.連絡が入っています

User: TANAKA TORU [ID: JP-58D2Q7VA-A]

Date: 2030-12-04 (JST)

Active Module: POLICE


[LOG ENTRY]

・・・

09:41:22 — Report progress saved.

09:41:24 — Message received. (Source: Traffic Division)

09:41:25 — Delivering message content to user.

・・・

________________________________________


[田中様。大場様から連絡が入っています。『今お時間とれるなら相談したい事がある』との事です]

「大場?珍しいな。用件は?」

[聞いておりません。『会ってお話したい』との事です]

「分かった。今なら時間作れる、と伝えてくれ」

[承知しました]


デスクで書類仕事をしていた所、突然珍しい名前が出てきた。

通りがかって雑談する事はあったが、直接連絡なんて本当に珍しい。初めてじゃないか?


「…どうしたんですか?テツ先輩」

「ああ、後輩から連絡が来たんだよ。なんか相談したい事があるとかで、今から来るらしい」

「後輩?」

「ここの交通課の係長、大場正和(おおばまさかず)だ。別の署で一緒に刑事課にいた事があるんだ」


大場は俺の2歳年下で、かつて別の所轄で一緒になった。

あの頃俺はまだ31歳、大場は29歳。若手として足を棒にして走り回っていたもんだ。

懐かしい。SOPHIAの無い時代の泥臭く地道な捜査を一緒に乗り越えた戦友だ。


「初耳です。そういえばテツ先輩は交通課も経験しているんですよね」

「ああ、若手の頃にな。交番から交通課を挟んでから刑事課、そこからは捜査一課含め刑事事件専門だ」

「そんなオマケみたいな言い方……」

「まぁ、適性が見つかるまでの繋ぎみたいな感じだったからなぁ……」


そんな話をしていたら、大場がやってきた。

相変わらずピシッと制服を着こなしている。交通課は刑事課と違って制服着用が義務だから大変だよなぁ。

……ん?一人か?交通課でも例に漏れずバディがいるはずなんだが。


「田中さん。お疲れ様です。お忙しい所お時間頂きありがとうございます」

「相変わらず堅苦しい喋り方するな。お疲れ、大場。…あ、こっちは俺のバディの中原だ」

「初めまして、刑事課2年目の中原詩織です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。交通課で係長をやっています、大場です。田中さんとは以前別の署で共に刑事課に所属していました」


中原と大場はお互い真面目な性格だし、意外と相性良いかも知れないな。

とりあえず適当な椅子に座らせて、話を聞く体勢に入る。


「で、話があるとか?」

「はい。昨日高速道路で1件死亡事故があり私が担当したのですが、それについて相談したいのです」

「何か妙な点があるという事か?」

「いえ、どこにも妙な点はありません」


は?何を言っているんだコイツは?

もし意図的に事故を起こした形跡などが見つかったのなら、こんな個人的な相談ではなく正式に応援要請が来るだろう。

そこで当の担当者本人も『妙な点は無い』と言っているのなら、相談なんて必要無いだろう。


「じゃあ何しに来たんだ。お前も暇じゃないだろうに」

「田中さん、以前私に言ってくれましたよね。『結果的に思い違いだったとしても怒らねぇから、気になる事があったら何でも相談に来いよ』、と。だからちょっと相談させてもらおうかと」

「……ああ、もちろんだ。何でも聞こう」

「もしかして忘れていました?」


いやまぁ、巧妙に事故に偽装された殺人を見逃してしまうくらいなら、些細な違和感でも相談してもらった方が良いと思っているのは確かだ。

昨日の空き巣もそうだが、SOPHIAがある社会でも巧妙に誤魔化してくる犯罪者は無くならないのだから。

だが、そんな堂々と宣言しただろうか。…待て中原、自分でも分かっているから、後ろで「言いそー」って呟くのはやめてくれ。


「まぁ、とりあえずそれで相談に来たという事は、気になる点がある、という事だな?」

「はい。この事件、すでに偶然の事故で解決しようとしています。証拠主義の観点から言えば、全て論理的に説明できています。意図的に犯行が行われた痕跡もありません。しかし……」

「しかし?」

「腑に落ちないのです。偶然にしてはあまりにも重なり過ぎている。ですが、どう考えても計画的に事故を誘発するのは不可能。そこで捜査一課経験もある田中さんに話を聞いてみてもらおうかと思って」


なるほどな。警察の立件は証拠主義。全ての証拠と合致し、罪状と再現性がはっきりしているか、が重要視される。

そして明確に犯人がいる刑事事件と違い、交通事故はそれが特に顕著になる。

現実的に起こり得る偶然の範疇かどうかで検証され、悪意の有無はその次なのだ。

なぜなら、『悪意を持って故意に起こした事』を証明する事が極めて難しいからだ。


例えば車に轢かれて誰かが亡くなったとする。

この時、どれだけ被害者側が『故意に轢いた』と主張していても、例えば被害者を確実に見ている状態で加速した形跡など、故意を証明する証拠を裁判で提示できなければ法律上は過失による事故と扱わざるを得ない。

そのためにブレーキ痕の検証やドライブレコーダーの記録、現代ではSOPHIAログによる計画性の検証などが行われるものの、最終的には人の心の中の話だ。こればっかりはSOPHIAでも記録できない。


「だから、一人なのか」

「はい。私は名倉澄香(なぐらすみか)という交通課新人とバディを組んでいるのですが、彼女含め周囲の者は誰も事故に疑いを持っていません。私だけが、違和感を抱えています」

「なるほどな。交通課の係長じゃなく、大場個人として雑談に来たというわけだ」

「はい。刑事の勘なんて大層な物でもありませんが、幸い何でも相談に来いと言ってくれた頼れる先輩も身近にいましたので」

「そう言われると応えてやらないわけにはいかないな」


それに実際問題、刑事の勘という奴は馬鹿にできない。それはスピリチュアルな話ではなく、無意識がどこかに違和感を覚えて警告をしているという事なのだから。

刑事として一緒に走り回ったコイツが何か腑に落ちないと感じるのであれば、俺としては聞く価値があると思う。


「ただすみません、厄介な事に、あまり時間がありません」

「時間制限?なんでだ?」

「SOPHIAが登場して、ほとんどの事件が48時間以内に解決するようになりました。その弊害というわけではないのですが……事件の早期解決への圧力があるのです」

「はぁ?だが急いで見落としが起きるよりは時間をかけてもしっかり調べるべきだろう?」

「それはそうなんですが、現状何か問題があるわけでもないので」


つまり、『ただの事故に無駄な時間をかけるな』という事だろう。

当然捜査自体は慎重に行われるが、そこで事故である事が明らかと判断できるなら、こねくり回して時間を無駄にせず、さっさと解決扱いにしろと。

話を聞く限り大場が違和感を持っているだけで周囲は全員事故で納得している。だったら大場の行動の方が不適切であるとも言える。


「わかった。時間はいつまでだ?」

「正直に申しまして、今既にリミットに立っています。報告書を名倉に作らせており、その間少し休憩と称してここに来た次第です」

「それはつまり――」

「今話を聞いて頂き、問題が見当たらないようなら事故として処理されます。現場に足を運んでもらう時間もありません。もちろん、私の知る限りの情報はお答えいたします」


思った以上に厳しい時間制限だ。安楽椅子探偵なんて小説ジャンルがあるが、まさか刑事である自分が体験する事になるとは。

足で稼ぐタイプの俺には厳しい課題だ。こういった事は正直高橋さんとかに頼りたくなるのだが……さすがに所轄の係長一人の違和感で捜査一課のブレーンを呼び出すわけにもいかない。

仕方ない、俺達で話を聞くしかない。幸い中原も何も言わず話を聞いてくれるようだし、新たな発想が飛び出すかもしれない。


「じゃあ、無駄話している暇は無いな。話してくれ」

「はい。よろしくお願いします。ではまず事件概要から。昨日16時頃、乗用車が高速道路の防音壁に衝突したと通報があり、緊急出動いたしました――」

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