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第2章 1 誤算

 明美は高校を中退した後、二十歳と偽ってスナックで働いた。

客として来ていた小林と深い中になるのは、そんなに時間がかからなかった。

小林と名乗る男性は、26歳でとび職として働いていると言った。

どちらかというと、小林のほうが積極的にアプローチをしてきた。

 明美は小林とは仕事の延長のようなつもりで付き合っていたが、店を辞めた後も付き合いが続いた。

小林は寛容なところがあって、店を移ったあとに付き合いが深くなった男との関係も公認であった。

相手の男が買ってくれるブランド品を売って金に換えると、小林は褒めてくれた。

綺麗に着飾ると、小林は褒めてくれた。

明美に興味関心のない両親とは大違いだった。

小林は自分を認めてくれる。誰と遊んでも許してくれる。

金は持っていなかったが・・・。

 明美は19歳で小林の子供を身籠った。

生む気はなかったが、小林にどうしても産んでくれ、結婚してくれと頼まれ、そんなに言うのなら程度で結婚を決めた。

 どうせなら玉の輿を狙っていた明美の誤算はここから始まった。

小林は結婚後も職を転々として定まらない。

長く続いたところで1年。

特段辞める理由もないようなのに、ある日突然仕事を辞めてきてしまう。

生活費を稼ぐために、仕方なしに明美は夜の街に出て行くことになる。

離婚を考えなかった訳ではないが、ずるずると結婚生活を続けていた。

 いくつ目の転職で小林が勤めた会社が里美の父の会社だった。

会社と言っても個人事業主だから、小さなところだった。

人のよさそうな奥さんと、酒が入らないとしゃべりもしない親方。

世の中に、こんな人種がいるんだと明美は驚いた。

人を疑うことも、人の裏をかくこともしなかった。

居心地が良かったのか、小林はここに2年も腰を据えていた。

やっと安定した生活ができて一安心と思っていた矢先に、小林は仕事を辞めた。

 この頃になると、明美は小林をどう扱えばいいのかが分かっていた。

仕事を辞めても次の仕事に就くまでの間は明美が働く、仕事を始めて少し経ったら、明美は専業主婦として小林の帰りを待つ。

裕福ではなかったが、それでも不満はなかった。

 明美が勤めていたスナックのマスターから、店をやってみないかと言われるまでは。

明美のどこに店を任せる素質を見出したのかは、明美本人には分からなかったが、自分の店が持てるかもしれないとなったとときに、夢が膨らんだ。

照明やテーブルの配置など、マスターと一緒に考えた。

人生で一番楽しかった時期かもしれない。

 そうして「スナック明美」は開業することとなる。

 小林が仕事をしている間は専業主婦をしてきたが、自分の店を持ってからは、そうもいかなくなった。

小林とすれ違いの生活が始まったが、小林は小言のひとつも言わなかった。

黙々と家事もこなし、子供を送り出してから仕事に出かける。

小林にとって、明美が好きなことをして笑ってくれていることが、何よりの幸福だった。

 スナック明美は、近所の人たちが集まる酒場として、そこそこ賑わいを見せていた。

中には喜ばしくない客も出入りしていたが、明美は生まれ持っての口のうまさで大きなトラブルもなく1年が過ぎていた。

 そこへ急に事態が変わる。

マスターが借金を残して夜逃げしたのだ。

明美の店は抵当にとられ、明美の居場所はある日突然消えてしまったのだ。

 失意の明美に小林は、自分たちの力だけで店をやろうと提案をした。

店を開くのにかかる資金をどこで調達するのか。

 一般的には、銀行からの融資を真っ先に考えるであろうが、小林は男から貢いでもらうことを明美に言い聞かせた。

楽して金が手に入るのならと、明美は獲物を物色するかのように夜の店に出入りするようになった。

 男の気を引くためなら、どんな女も演じられた。

そして、不動産屋を営む曽根という男と出会った。

曽根は金払いが良く、明美のおねだりもすんなり聞き入れてくれる男だった。

曽根には妻と子供がいたが、明美にマンションを買ってくれた。

明美が店を出したいと言えば、開業資金も店も用意してくれる勢いだった。

 こうしてママに返り咲いた明美は、また、華やかな生活に戻ることになったのだが、予期せぬ二人目の妊娠が分かった。

曽根の子なのか、小林の子なのか、明美にさえ分からなかった。

曽根はおろせと言い、小林は産んでくれと言った。

 そこで明美は、曽根には小林の子だと言うことでその場をしのぎ、二人目の子供を無事に出産した。

子供が好きではない明美は、子育ては小林に任せ、産後2週間で店に戻った。

ちょうどそのころ、探偵を使って浮気調査をしていた曽根の妻に明美の存在が明るみに出た。

明美は曽根の妻から慰謝料を請求された。

曽根は手切れ金代わりに店を明美にくれてくれた。

マンションは流石に譲渡してはくれなかったが、店だけでももらえたのは幸運だった。


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