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3 再会

 小林明美の初公判は2005年10月に宇都宮地裁で行われた。

数回の公判によって、小林明美の罪が明白にされた。

 事件の概要はこうだ。

栃木県小山市に住む小林明美被告は、土地取引を通じて知り合った佐野市に住む元会社員の山下茂さん(当時40歳)に近づき、障害者施設の建築費などのため保険金殺人を計画。

2001年4月に1億円の生命保険と5月に7千5百万の旅行保険に加入させた。

この二つの保険は、第三者による殺害の場合は倍額が支払われる契約だった。

掛け金はすべて小林明美被告が支払った。

小林明美被告は、当時フィリピンにいた篠原啓介被告と共謀。篠原啓介被告は自身がマニラ市で店長を務めているカラオケパブの店員だったフィリピン人男性に殺害を依頼した。

フィリピン人男性は2001年9月4日午前3時ごろ、マニラに渡航した山下さんを刺殺。

篠原啓介被告は報酬として200万を受け取り、うち約20万をフィリピン人男性に手渡した。

小林明美被告は同11月に第三者による殺害を装い、保険金を騙し取ろうとしたが、保険会社は契約の不備等を理由とし、保険金は支払われていない。

 なお、小林明美は1999年7月に、交通事故で死亡した男性の妻から、自賠責保険金1496万円を着服したとして、懲役1年8カ月の実刑判決を受けた。栃木刑務所で服役し、事件当時は仮釈放したばかりだった。

 初公判では、共犯とされる篠原啓介被告と殺害を計画し共謀した事実を認め、保険金を騙し取ろうとした保険金詐欺未遂事件についても「認めざるを得ません」と述べた。

 しかし、その後の公判では全面否認に転じた。

取り調べの段階で殺人容疑を大筋で認めた理由については、「検察官が、自白しなければ息子を逮捕するという態度だった。子供を守らないとと思った。自分の主張が受け入れてもらえず、仕方ないという気持ちになったため」などと説明した。

また、篠原啓介被告に渡した金は、パブの運営資金だったと主張。

 これに対し、検察側は小林明美被告が事件の首謀者であり、被害者の殺害計画から実行までを主導した。凶悪かつ利欲的性格という本質は、強盗殺人と変わらないと述べた。

 一方、共犯の篠原啓介被告は、すんなりと自供し、裁判でも争う姿勢を見せなかった。一審判決で無期懲役判決が下り、控訴したものの後に取り下げをし、刑が確定している。


2005年11月

 里美は宇都宮地裁に来ていた。

裁判所の入り口を入ると、目的を書かされた。

他にも裁判が開かれているようで、ロビーはごった返していた。

手荷物検査を受け、金属探知機を通らされた。

随分と物々しいなと里美は思った。

 傍聴席に入ると、席はまばらに空いていた。

周りを見やると、私以外は新聞記者らしい。

腕章をつけ、メモ帳とペンを持っている。

まだ裁判の行方を追っている新聞社があるのかと複雑な気持ちになった。

 携帯電話の電源を切るようアナウンスされ、里美は携帯をバッグから取り出し、電源を切った。

ほどなくして、被告人は裁判官たちが座る前方左のドアから入ってきた。

手錠をはめられ、腰縄が巻かれている。

拘置所職員がそれを後方から持って引いている。

 被告人席に立った小林は傍聴席を見渡した。

あまりにも堂々とした態度で、不敵な表情だった。

どんな奴が傍聴に来ているのか気になるのだろうか。

それとも知り合いが来ているか確認したかたのだろうか。

里美は視線を逸らさず小林を見ていた。

 一瞬、小林と目が合った気がした。

私が誰なのか気づいただろうか。

いや、気づくはずがない。

私の事なんて覚えていないだろう。

数十年ぶりの再会が、被告人として里美の視野に納まっている。

鼓動が高鳴って、耳の奥でドクンドクンと心臓の音が聞こえる。

こいつが父と母の幸せな日々を奪った女だ。

手錠と腰縄が外され、小林は被告人席に座らされた。

この日、どんなことを宣うのかと小林の声を聴くのをある意味楽しみにしていたのだが、被告人が言葉を発することはなかった。

 被告人席に座る小林明美は、ずっと真正面を向いて座っていた。

裁判官の方を見ることも、傍聴席を見ることもなく、ただ真正面に顔を上げて微動だにしなかった。

どんな悪人の顔をしているのかと思っていたが、ただのおばさんだった。

白髪が混じった黒髪を後ろで一つに束ね、灰色のセーターと黒のスラックスを履いていた。

決して裕福そうには見えないし、誠実そうにも見えない。

どうしてこんなおばさんに騙される人がいるんだろう。

うちの母親並みに世間知らずのお人好しがいるというのか。

化粧をして、夜の仕事をしているときは、もっと華やかだったのだろうか。

女の私には、被告人席に座る小林の魅力を見つけ出すことはできなかった。

この日は、共犯者の取り調べや裁判での言論について、検察官と裁判官、弁護士と裁判官のやり取りだけで閉廷した。

 腰縄と手錠をかけられ、ドアから出て行く姿を最後まで見届けて、里美は静かに席を立った。

判決が言い渡される日にすればよかったなと、肩透かしをくらったような気分で帰路についた。


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