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4 人間、見た目が90%

 線の細い綺麗な子、それが里美が抱いた滝沢の印象だった。

背は155cmくらいだろうか。細くて華奢な肩にかかる艶のあるストレートの黒髪。

里美は一目で採用を決めていた。

人間、見た目が90%と豪語する面食いの里美理論である。

そして、滝沢の過去の話しを聞いて、守ってあげたいと思ってしまったのである。

自分の傷を他人に投影して見てしまうという援助職にありがちな沼にはまったともいえよう。

滝沢の言葉はストレートだった。

真っ直ぐな言葉。

ただでさえ群馬弁はキツイと言われるのだが、滝沢の言葉やイントネーション、話し方は、それに輪をかけて強く感じた。

敵が多い子だったんだろうな。里美は思った。

気を遣ったはずが相手を傷つけてしまうような、選んだはずの言葉で周りが凍り付くような、そんな不器用な子なんだろうと思った。

里美自身がそうであるように。

 人との出会いは運命的なものがあると里美は思っていた。

出会いも別れも、それは偶然ではなくすべて必然で、既に決められているのかもしれない。

自分の抱える傷も、滝沢が背負った傷も、癒える日がいつか必ず来るのだろうが、悲しいかな未来は見えない。

 開所から3週間が経っていたが、利用登録人数にはまだ空きがある。

今だから細かく教えられることがある。

病院ではなく、医療行為が少ない介護の世界。

ここに来る人の殆どは、看取りがメインである。

それでも看護小規模多機能だから、胃ろうやIVH、疼痛コントロールの必要な利用者がいるが、それでも第一線の医療現場とは行って来るほど違いがある。

物足りないと感じるナースもいるし、看取りに意味を見出す人もいる。

滝沢がいずれナースとしての自信を持ち直して、病棟に戻る日がくるのかもしれない。

それはそれで喜ばしいことだ。

 「今日のムンテラ、一緒に行ってくれる?」

里美が滝沢に声をかける。

「3時でしたよね。行けます」

「じゃ、よろしくね」

里美は両腕を大きく広げてから、自分で自分を抱きしめるポーズを取って笑った。


 里美と滝沢は地域でも比較的大きな二次病院に来ていた。

受付で要件を伝えると、青い線に沿って歩いて行ってエレベーターで3階に行くよう指示された。

「病院、懐かしいんじゃないの?」

並んであるく滝沢に言った。

滝沢は何と答えたものかと思い、まあ・・・とだけ言葉を返した。

 3階のナースセンターに声をかけると、ソーシャルワーカーが出てきて、ナース室横の部屋に通された。

「今、主治医の中森がきますので、もうしばらくお待ちいただけますか」と告げられた。

ほどなくして、若月さんの兄が部屋に入ってきた。

お互いに挨拶をしていると、主治医の中森がやってきた。

「お待たせしましたね」という中森という医師は、50代くらいの白衣を着た男性だった。

中森は病状と入院後からの状態を簡単に説明したあと、

「誤嚥性肺炎を繰り返してますし、嚥下評価では飲み込む力が衰えていると判定されたことから、胃ろうかIVHの必要があります」と言った。

 若月さんの兄は、「私ももう年ですし、弟も独り身です。そんなに貯えがあるわけでもないので、自然でいいと思ってます」

迷いなくそう切り返した。

 そうきたか。と里美は思った。

里美は胃ろうもIVHも推奨しない派だ。

延命措置と言われるこのふたつは、高齢者の生存年数を伸ばす事が可能だ。

しかし、QOLは著しく下がる可能性がある。

ただ生かされているだけの生活、寝たきりで何の楽しみもなく寝て過ごす。

一日でもいいから長く生きて欲しいと思う家族もいることは事実だが、施される本人の気持ちを考えると、里美は推奨したくないのだ。

「口から食べられなければ、それはそれで寿命だと思います」

若月さんの兄はキッパリと中森医師に言った。

「そうすると、退院はいつでもいいですよ。今決めてもらってもいいですよ」

と、中森医師が言う。

「明後日なら迎えに来れます」

 兄の潔い決定に、退院の時間やサマリの手配などの詳細をケースワーカーと話し合い、30分もかからずにムンテラは終わった。

「看取りをそちらで行うってことですね」

終わり際に中森医師が確認するかのように言った。

「はい」

里美と滝沢の声が重なった。

 帰りの車の中で、里美は楽しそうに言った。

「お兄さん、いい決定をしたよね」

「そうですね。あんなにあっさりと言い切れる家族も珍しいんじゃないですか」

「そうだよね。大抵は迷うからね」

「明後日帰ってきたら、食事はどうするんですか?」

「まずはミキサー食で出してみようと思う。病院じゃ点滴だけで口からは入れてないって言ってたけど、口からまだいけると思うんだよね」

「そうですね。口から入れたら死ぬくらいの勢いでしたよね」

笑いながら滝沢が言う。

「口から普通に食べるようになるに1票かける」

「私もそっちにかけるから、かけにならないですよ」

「今は歩かせてもらってないけど、帰ってきたら絶対歩くよね」

「歩くと思います。若月さん、足腰は丈夫ですからね」

笑いあっている二人だったが、兄の判断を十分に尊重しようと決めていた。

※ムンテラとは、医師が患者に対して病状や治療などに関する説明を行うこと

※IVHとは、主に中心静脈栄養法の略称で、口から食事ができない場合に、差事などの下にある太い中心静脈にカテーテル(管)を挿入し、高カロリー輸液を直接注入して栄養を補助する方法

※胃ろうとは、口から食べ物を十分に摂取できない場合に、お腹の皮膚と胃の間に穴をあけ、チューブを通して直接胃に栄養剤や薬剤を注入する医療処置

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