思ったより特別じゃなかった
「みんな……聞いてくれ。信じられないかもしれないが実は俺……」
ダンジョンの奥深く、そのダンジョンを守る守護者のいる部屋の前で最後の休憩を取っていたとある冒険者のパーティーの一人である剣士が不意に口を開いた。メンバーである魔術師、騎士、神官、そして遠い東方から来たニンジャは一体どうしたんだと剣士の方へと視線を向ける。
「実は俺、前世では違う世界で生きていたんだ。いまとは全然違う名前で、全然違う世界で……。生まれ変わってこの世界に来たんだよ」
この言葉の意味がメンバーに通じるのかは分からない。だが、死んでしまうかもしれない戦いの前に信頼できる仲間たちに隠し事をしたくはなかったのだ。
だからたとえ自己満足だとしても話しておきたかったのだ。
「違う世界って……」
誰かが口を開く。分かるはずもないよな、と思いながら剣士がその世界のことを説明しようと再び口を開こうとすると、思いも寄らない言葉が聞こえてきた。
「まさか日本?」
「えっ」
そうして魔術師が、騎士が、神官が、そしてニンジャが、次々と実は私も俺もと言い始めた。
自分のことを特別な転生者だと思っていた冒険者メンバーはお互いに顔を見合わせ、笑い声をあげる。そしてこの異世界に日本食がないのは辛いといった愚痴や、あの漫画やアニメはどうなったんだろうという疑問で盛り上がる。
そうしていると守護者がいる部屋の扉が勝手に開いた。ボスが部屋から出てくることはほとんどないはずなのに、と警戒して武器を取った冒険者の前に、鎧兜を身に着けたスケルトンが両手を上げながら出てきてこう言った。
「あの、俺も前世トークに混ぜてくんない? 俺コンニャク大好きなんだよね」