Story 43. 撮影ブレークタイム
「んっと、つかえない」
と、ご立腹の村瀬。まともな写真を撮らない木崎をなじった。
「ぜったい消してよ」
「プッ――」
木崎が画面をみて笑う。
手ブレでひきのばされ、村瀬の顔がエライことになっていた。
村瀬は木崎にみきりをつけ、歩邑に声をとばす。
「歩邑ちゃん、撮って~」
「撮る撮る~」
村瀬が誠也と腕をくんだ絶好のシャッターチャンスを、歩邑は逃さなかった。
カシャッ、カシャッ――
思いをありのままに、ぶつける村瀬。
――じぶんはどうなんだろう……
ふと歩邑はかえりみた。浮かんだのは――山頂のできごとだった。
――きかなきゃ……
「あのさ……見ちゃった……」
キョトンとした薫が、ことばのつづきを待っていた。
「抱きあってるとこ……ひまりと……」
――なんだったの……
薫は「へっ?」とおどろくと、すぐさま真剣な顔つきになる。
しばらく思案して、いった。
「富永が立ちくらみで倒れそうになった――アレか」
「立ちくらみ?」
「しばらくすわってたろ、立とうとしたらフラって」
「ふうん……」
あのとき歩邑がみたのは、ひまりの背中――薫の首に腕をまわし、抱きついたひまりの背中だった。
――ひまりが貧血で倒れそうになって、たまたま? そばにいた薫に抱きついちゃった……
できすぎた偶然だ――と歩邑は思いながら、近くにあるイスみたいな形をした岩に腰かけた。
――あたしだって……薫を……
なにやら薫がうろたえている。
「ウ、ウソじゃないって」
「知ってる。薫はそんなウソつかない」
安堵した薫の口からこぼれた。
「そか……よかった」
――なにが?……
ムッとした歩邑の口からこぼれた。
「よくない……」
――あたしだって……
うつむいた目にじわり、涙が浮かびそうになったそのとき――
「皆川――?」
――あたしだって!
歩邑は決意した。指先がしずかにふるえだす。
「疲れちゃったな……」
声もふるえていた。
「もどらないとだね……薫、起こして」
「あ、うん――」
薫は――たいていの願いならきいてくれる。
歩邑は無言のまま両脇をすこしひろげ、“起こしてポーズ”をとった。
薫が「フッ」と笑う。
「ちっちゃい子供みたいだな」
――ふたりきりの、いま……
「子供だもん……」
ぷうと頬をふくらませ、プイと顔をそむけた。
「起こすぞ、そーれっ」
タン! と立ちあがった。
「んじゃ、もど――」
――あたしだって!
両腕をひろげ、すこし身をかがめた歩邑が――薫をやさしくつつみこむ。
耳元でささやいた。
「……ち……み」
薫はなにがおきたのか、まだ――わかっていない。
もういちど――ささやく。
「……立ちくらみ、だよ」
ぎゅうっと抱きしめた。
――薫、大好き……
歩邑がピクと、ちいさく反応した。
背中に――薫の腕がまわるのをおぼえて。
ドクン、ドクン――
脈打つ薫の鼓動を――大騒ぎするじぶんの鼓動とともに、感じる。
「だいじょぶ……か」
そうきいた薫の声は、かすれていた。
「うん……へーき……」
もういちど――抱きしめる。
ぎゅーっと抱きしめ、満たされた歩邑は、
「ありがと」
と礼をいって薫から離れた。
「――ちゃん、歩邑ちゃん!」
「! 撮るよ~」
われに返った歩邑が、声をはりあげた。高鳴る心音をごまかすみたいに。
「木崎も入って!」
「まんなかに来いよ」
「ちょっと、誠ちゃん」
「ウェーイ」
フェンス際でつづく撮影会。
「松本、お願い……」
ひまりがやってきた。