Story 42. もりあがる軽食
「誠ちゃん、食~べて」
サンドイッチとおにぎりがベンチの上にならべられ、立食スタイルで六人がかこんでいた。
手づくりサンドイッチをつめたランチボックスを、村瀬がさしだす。
誠也は「サンキュ」と、ひとつつまみあげた。
「もらうべ?」
とヨコから木崎も、ひょいととってパクつく。
村瀬はギロッと木崎をにらんだものの、
「おいしい、おいしい」
と食べる誠也をみて、飛びあがってよろこんだ。
薫は持参のおにぎりを手にとって、くるんであるラップをひろげる。
弁当箱には、ちいさめのおにぎりが個包装されてならんでいた。
「なに入ってるのー?」
「なんだと思う?」
ひまりの質問に、質問をかさねた歩邑。
「ンかみはモグモグ――」
「ていっ」
手刀がきた。
「口にものが入ってるときは――しゃべらない」
薫はすなおに、コクリとうなずく。
歩邑は言動のひとつひとつに元気があふれ、すっかり疲労を吹きとばしたようだ。
ひまりがきいた。
「歩邑、なんかあったー?」
――えへへ……
「……ないなあ」
と歩邑の手には、パックリわれたおにぎり。
――ヒミツだよ
「えー! ねー、なに?」
ひまりは抗議の色をしめすと、薫に向きなおって再度きいた。
「ないよ。なんもない」
と薫がうつむく。
しかし誠也のテンションは、逆にあおむく。
「具がない……塩むすびか! モッチ、わかってるな~」
「薫がつくったの?」
「――うん」
「じゃあ、味見しよー」
と、ひまりが手をのばす。村瀬と誠也も。
「シンプルでおいしいねー」
「――ホントだ」
「しみわたる塩……」
と薫のおにぎりは、なかなか好評みたいだ。
「村瀬のたまごサンドもいけるぞ~」
誠也の好物ずばりの具材は――あらかじめリサーチしてあったのだろうか。
「たいせつなのは、こーこ!」
と胸をたたく村瀬をみて、ズッコケそうになった木崎がきいた。
「皆川の、もらっていっか?」
「どぞ~」
「ぼくも」「うちも~」「どれどれ」
「わたしも、いっただっきまー」
六人はまるで――申し合わせたかのように、同じ反応をみせた。歩邑まで。
てりやきチキンサンドを、ひと口ほおばると……
目を大きく見開き――
モグモグあごを動かすと……
にんまり目尻をさげ――
ゴクリのみこむと……
うっとりした表情で、ことばにならないうめきをあげた。
「なんぞ、コレ……」
「んんん……いつもながら、おいしー」
絶品感動モードの木崎と、美食たんのうモードのひまり。
歩邑が――事情をしらない木崎・誠也・村瀬に、タネあかしをした。
「ママはパン職人なんだ、えっへん」
と両手を腰にあて、鼻高々にドヤる。
いっぽう、ひまりは――料理家モードにめざめたかもしれない。
「つくりかた、教えてもらえないかなー」
「うん? ママにきいてみるよって、あー!!」
いきなり大声をあげた。
「なんぞ?」
「写真、撮ろうよ! みんなで」
と荷物からスマホをつまみだす。
「のぼるのに必死でわすれてた」
と舌をだした歩邑は――薫に身をすりよせ、自撮りをスタンバる。
「みんな、あつまって~」
カシャッ、カシャッ――
「わたしも持ってきてたー」
とひまりもくわわり、スマホ持ちの三人が写真をとりはじめる。
楽しい軽食&撮影タイムとなった。
「皆川、撮ろうぜえ」
あれこれポーズをためしてみる木崎と歩邑。
ふとした拍子に、肩と肩とがふれあった。
「……っ!」
木崎がいっしゅんこわばる。
かすかに上ずった声でいった。
「と、撮るべ……ウェーイ」
「イェーイ」
カシャ――
画面のなかの木崎は、なんだかすこし緊張しているようにみえた。
「薫ー」
と歩邑が声をかけ、目線をもらう。
待ってましたとばかりにパシャリ――薫が大口をあけ、おにぎりをほおばろうとしている決定的シーンを、写真におさめた。
「ちょ! はずかしいだろ」
「ゴメン~」
と笑顔であやまりながら――薫の肩をひきよせ、となりにくっつく。
「近すぎ……ない?」
「画面みて!」
と肩においた左手でピースサインをきめ、2ショットをパシャリ。
ご満悦の歩邑に、声がかかった。
「歩邑ちゃん、撮って~」
「撮る撮る~」
村瀬のもとへかけていった。