Story 39. ふたつのターゲット
「到着ー!」
「ひ~、つかれた~」
「ったぜ……ハァハァ……」
階段をのぼりきると、ちょっとした広場のようになっている。
そこが展望台だった。
簡素な屋根つきベンチには目もくれず、三人はフェンスにとりつく。
「ひゅー」「すごっ」「パネェ」
展望台からの眺めは――まさにワンダフル。
二〇キロ離れた海すらみえる。もちろん麓の小学校や商店街も。
「あっちで休憩。誠ちゃん、膝枕して~」
「それはムリ」
とキラリ歯をかがやかせた誠也のさわやかさ。
「このさい木崎でいいわ。膝枕して~」
「それ、オレのセリフじゃね?」
「絶対イヤ!」
といわれシュンとする木崎。
誠也はあちこちみてまわり、村瀬と木崎はベンチに寝そべった。
△ △ △
「痛み、ひいたみたい」
「よかった、立てるか?」
「とうぜんだよー」
薫はサポートできるよう、まえにまわる。
ひまりはなんの支障もないと、よどみなく立ち上がろうとして――目がくらんだ。
倒れそうになり、思わずしがみつく――いや、抱きついていた。薫に。
首に両腕をまわした姿勢でいった。
「立ちくらみ。じっとしてれば治る……」
「そか……びっくりした」
歩邑がやってきたのは、ちょうどこのときだった。
抱きあうひまりと薫を目にして、フリーズする。
ケガにひきつづいて立ちくらみまで……薫はひまりを回復させるには――と、あたまをフル稼働させていた。
いっぽうひまりは――からだを薫にあずけて、そっとハグしている。
歩邑は灌木のそばに直立したまま、閉じることをわすれた瞳が、ふたりの抱擁だけをとらえていた。
ようやく、ひまりの視界があかるさをとりもどす。
と同時に、歩邑もわれに返った。
――どゆ……こと……
ひまりは薫の肩に手をつき、今度こそ――立ち上がった。
「だいじょぶか?」
「うん、追いかけよー」
――いま……のは?……
歩邑は戸惑いつつもかろうじて、いま来たふうをよそおってかけよる。
「迎えにきちゃった~」
声の飛んできたほうへ、顔を向けるひまりと薫。
「グッタイミン! いっしょに出発しよー」
と笑顔をなげたひまりのようすは――いつもと変わらない。
「薫――」
「ンん?」
――なにしてたの……
「ひま……ううん、なんでもない」
「あ~? 競争したいのか」
とニヤリ。薫もふだんと変わらないようにみえた。
「それはムリ」
と息をきらした歩邑が笑う。その笑顔のウラにことばを飲みこみ、動揺をつつみかくした。
「じゃあ、わたしが」
「へっ?」「えっ?」
いつもながらひまりは、予想だにしない発言や行動をみせる。
――きけない……
「山頂までは数分か――」
さいごの行程をたしかめた誠也は、薫たちを待っていた。
村瀬と木崎はベンチに寝そべって目をとじている。すこしは体力がもどっただろうか。
しずかに景色をながめる誠也。
グゥゥ――
「腹へった……」
薫がドンドンのぼっていく。
「松本って――」
その背中にはとどかない声で、ひまりがいった。
「頼もしいね……」
――そ、頼りになるんだよ
と、こころでうなずいて歩邑がきいた。
「なんかあった?」
「うん? ないよー」
さらっと返したひまりの口元が、ほんのりほころぶのを歩邑はみていた。
――さっきのは?……
部で同じ時間をすごしているものの歩邑は、ひまりのことがよくわからない。
バレーボールの話題をのぞけば、話すのは――せいぜいコスメやメイク、おきにいりの音楽グループのことくらい。クラスのだれだれが好きだとか、告られたとか、いわゆる――恋バナをした記憶がない。
知っていることといえば――ふわふわした口調ながら、思ったことをストレートに発言すること。お菓子で豹変すること。遠足でカミングアウトした爬虫類女子なこと。クラスメイトなら、だれでも知っているような内容ばかりだ。
だから、ひまりの行動や発言には――いつもおどろかされる。
声が降ってきた。
「おいてくぞ~」
「おいてく~?」「待って待ってー」
歩邑とひまりが、急ぎ足になる。
――やっぱり……も……