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Story 27. ポジティブのご褒美

 ()(むら)は目をうたがった。


――えっ……なんで……


 ふたりがあるいてくる。モールの通路を向こうから。

 にこやかに語りあい、ときおり視線を()わす――(かおる)とひまり。


「どゆ……こと……?」


 歩邑の足はピタリ止まり、立ちつくす。


「あっれー? 歩邑」


 と気づいたひまりが声をかけた。

 質問がとんだ。歩邑から。


「……なに……してるの?」


 ひまりと薫は、ことばの真意がわかっていない。


「服えらんでー、ガチャポンみにいってー、あと――」

「ゴーグル買いに」


――それってデート……


「あたし、家族ときてるから……またね」

「またねー」「バイバイ」


 うつむいた歩邑が、無邪気に手をふる薫のよこを――とおりすぎていく。

 ぎゅっと閉じた瞳から、こぼれおちる(しずく)


――なんで、なんで、なんで……


  ▽ ▽ ▽


 ふたりは、まったく思い及ばなかったのだろう。

 はたからみれば――まぎれもないデートであることに。

 よくいえば純粋、わるくいえば坊やなのだ。薫は。

 ひょっとすると、ひまりは――とぼけていたのかもしれない。


 ヴー、ヴーッ――


 ひまりのスマホが震えた。


「お姉ちゃん、おわったって」


 五つ年のはなれた姉のカットに同伴したものの、待ち時間のあまりの長さに、サロンをとびだしてきていたのだった。


「時間つぶし、つきあってくれてありがとー」

「あいよ、気にすんな」


 タタタタッ――


 軽快な足どりで、ひまりが去っていく。


「んンーーッ」


 ひとつ伸びをして、薫がいった。


「――と、あそこいっとくか」




 家族と合流した歩邑は、うわのそらだった。

 (なか)(むつ)まじい薫とひまりの笑顔が、あたまからはなれない。


――なんでよ


 たしかに気さくな薫は、だれとでも話をするタイプではある。


――だからって……デートなんて……


 遠足の班が同じだったことで、薫とひまりの距離が近づいたのはまちがいない。


――あたしだけじゃなかったんだ……


 歩邑はあらためて気がついた。

 薫との親密度は、じぶんだけじゃなく――班のメンバー全員、ひまりも佳奈も上がっていたことに。


「そっか、ハァ……」


 歩邑は目線をあさっての方向になげかけ、たたずんで――


「ほむ……ほむ!」


 ()(くら)の呼びかけに、ハッとした。


「えっ、あ、(ねえ)

「いくよ! ぼーっとしてないで」

「してないもん」




 本屋にきた。

 なんとなく――ひとりになりたかった歩邑は、家族からはなれる。


「あっちみてくる」


 えらんだのは児童書コーナー。

 客がいないという予想は、あいにくはずれた。


 そこには――いた。

 歩邑がもっとも会いたい、けれどいまは――もっとも会いたくない人物、薫が。

 ひとりだった。

 熱心に、手にとった本を読んでいる。


――どうしよぉ……


 反射的にひき返そうとした歩邑だったが、グッとこらえる。


「こんな気持ちのままじゃ……やだ」


 じぶんに向かって、ポツリつぶやく。そして、


――あたしは、だいじょうぶ


 とネガティブをぶっとばす、勇気のおまじない!

 意を決してふみだした。

 そっと近づき、うしろからのぞきこむ。


「ふむふむ、息つぎのしかた――」

「ぐわあ! (みな)(がわ)か……ビビった」

「あははは、ひまりは?」


 平気なフリして――きいてみた。


  ▽ ▽ ▽


「――に協力してたんだ」


 と薫から――ひまりといっしょだったいきさつを、あまさずきいた歩邑。

 逃げずに、じぶんの想像だけでなく――薫のことばに耳をかたむけようとした前向きな姿勢が、真実をつかみとった。


――デートじゃなかった


 ほっとした歩邑の、ちょっとした冒険。


「相手が――あたしでも協力してくれた?」

「ったりまえだろ」


 破顔一笑、おどけてみる。


「それでこそ、わが弟子じゃ」

「どなたですか」

「ていっ」


 おでこを押さえる薫。

 こころがからり晴れわたった歩邑が、唐突にいった。


「協力――してあげよっか」


 ついにでた……歩邑のお手伝い大作戦!


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