表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

Story 26. よさげなアイテム

 古くなったアスファルトがゆがんでできた――ゆるやかな(でこ)(ぼこ)や、きまぐれな穴ぽこの存在を、タイヤごしに感じる。

 ながれる景色はいつもの風景を、ほんのすこしだけ外れたものだった。

 (かおる)は循環バスに乗っていた。


 二〇分たらずの小旅行。

 じき、ショッピングモールに着いた。

 薫は二階にある、直営の衣料品売場へと向かう。

 お目当ては――ゴーグル。

 水泳でつかうゴーグルがみつからず、買いにきたのだった。



 なぜ、ゴーグルがみつからないのか――


 こころあたりがない――わけではなかった。

 むしろ、じゅうぶんすぎるほどあった。

 クラスの“いらんことしい男子”三人がやらかした黒歴史。

 その奔放さが、まさに黒歴史だった。


(ばく)(えい)戦隊! ゴーグルジャー」


 名乗りパフォーマンスの完全コピーである。

 中央にゴーグル・マリンがすっくと立ち、両わきにレッドとイエローが(ちゅう)(ごし)にかがむ。

 三人とも右手をゴーグルに――レンズ部をつかむようにそえ、左手をのばしてポーズをきめた。


――ゴーグルジャー!


 思わずポーズをとりそうになって、ピタリ固まる薫。

 平静をよそおい、さりげなく――あたりをみまわした。


――あっぶね……


 いまさら、はずかしがることもなかろうに。誇らしき黒歴史。

 ともかく――ゴッコ遊びをしているうちに、ゴーグルが行方知れずになったということらしい。




 (のぼ)りエスカレーターに乗る。

 フロアマップをみて薫は、ひとまず子供服エリアをめざした。

 カラフルな服たちがならんだ売場は、通るだけでも気分があかるくなる。


――この辺のはず……だな……


 ポップが目に入った。“プール用品コーナー”――


「水着、サンダル、キャップ……はい、ゴーグル発見」


――黒だけじゃない? ほー……


 レンズに色がついていたり、サングラス仕様になっているものもある。

 ゴム部が――白やブルー、黄色やピンクのものもあった。


「迷ったら、試着試着」


 いたって標準的な、黒ゴムのゴーグルはさけたい――と思う薫。


――はい、地味ー


 いちおう試着してみた感想である。つづいて青は、


――マジメっぽい


 と不満げだ。さらに黄色をつけてみると、


「いいんじゃないー?」


 と鏡のなかの薫の背後から、ピコリ顔をだしたのは――ひまりだった。


「青は、どうかなー」


 手にとって薫にあてがう。


「わー、クール」

「おい!」

「気に入ったのは、どーれ?」

「い・ま・み・て・ん・の」


 と今度は、ピンクを試着してみる薫。


――ちょ、こ、れ……


「かわいいー!」


 ひまりが大よろこびする。

 パチパチとまばたきした薫は、無表情をつくって照れをかくす。


――かわいすぎるだろ、われながら


「ピンクにしなよー、わたしとおそろ」

「ぐむー」



  ▽ ▽ ▽



「どれが、よさげー?」


 ひまりと薫はプチプラファッション店の(いっ)(かく)で、ローティーン向けの服にかこまれていた。


「学校に着てくヤツか」

「うん、うんー」


 数えきれないほどの、シャツやスカートやワンピースがぶら下がっている。


「どれでも、いいんじゃ」

「テキトーだなー」

(とみ)(なが)、なんでも似合うだろ? 色白は得だよな」


 すぐそばのワンピの列に指を走らせて薫は、


「やっぱ黒か――これだ」


 と一着、ひまりにつきだす。


「へー、いい感じ……ほかにもある?」


 なぜかひまりのコーデをみつくろうはめになった薫は、意外にも手ぎわよく――ピンク色のプリーツスカートや、胸元がレイヤード風の水玉シャツ、(のう)(こん)デニムのタイトスカートなどをえらぶ。

 ひまりはそれらを試着室にもちこんだ。

 待つことしばし……


 シャーッ――


「いかがでしょー」

「想像以上に()えるな」


 まんざらでもなさそうな、黒ワンピをまとったひまり。


 ひまりは着替えては薫に感想をもとめ、ファッションショーを楽しむ。こころゆくまで。

 気づけば、出会ってから――三〇分がすぎようとしていた。




「松本ってセンスいいんだねー」

「てか、富永のセンスどうなってんの? ガチャポンまで()虫類かよ」


 ウフフと目をほそめるひまり。

 おしゃべりを(はず)ませながら、仲よくならんで通路をあるく。


 週末のモールは混みあい――こちらからの流れと、向こうからの流れが不規則にまじりあって、買い物客が()()していた。


 ざわざわ――


 せき止められたかのように――ふいに立ち止まった。ひとりが。

 雑踏にかき消されそうな弱々しさでつぶやく。


「どゆ……こと……?」


 ぼうぜんと立ちつくした()(むら)だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ