表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/34

Story 2. 信号待ちとUターン

 リュックを(かか)えた()(むら)が先頭をあるく。


 バランスのとれた筋肉をまとうスリムな(たい)()が、歩邑の運動能力をものがたる。

 健康的な(はだ)の色は、やや(かっ)(しょく)をおびた()(はだ)()()しのコラボレーション。

 その端正な顔だちは、かわいいよりも美しいというワードがふさわしかった。


――いつからだっけ?


 うしろをついていく(かおる)は思い出そうとしていた。

 まったく帰る方角のちがう歩邑といっしょに下校している不思議。


 西に傾いた太陽のひかりが商店街をまっすぐつらぬく。

 足もとから伸びた薫の影は、歩邑にはわずかにとどかなかった。


――()きもせず毎日まいにち、ぼくのリュックを……


 飾らない性格もあいまって歩邑はクラスの人気者だった。

 そのとなりを(はん)()遅れてあるくのは、やはりバレーボール部に属する(さか)()()()。歩邑のいちばんの親友だ。

 部ではセッターをつとめ、状況に応じた指示をなかまにおくる()(れい)(とう)にふさわしく、あたまの回転が速かった。

 クラスでは薫のライバル、いや天敵といったところか。


 一行の足どりは、じつにゆるやかだった。


 休み時間のできごと、好きな芸能人のうわさ、本日の夕ご飯予想、ゲームの攻略法などなど、話題をあれやこれやと変えながらすすんでいく。

 快活なおしゃべりが商店街ににぎわいをそえた。




「宿題めんどーい」


 少女の悲鳴に、うしろから薫がちゃちゃを入れた。


「――てか瞬殺?」

「ムリだから!」「ムリだから!」


 見事にハモった歩邑と佳奈。


「あはは、息ぴったりだな」


 帰宅した小学生の最優先タスクといえば、宿題だろう。

 親や担任に目玉をくらうコースは、だれしも避けたい。


「おおっと」


 ちいさくうめいて佳奈が道をそれる。

 えだ(みち)の奥の、(なん)(けん)()かが佳奈のアパートだった。

 ひらけた駐車場をよこぎりながらブンブン手をふる。


「それじゃ歩邑、またね~」

「バイバーイ」

「薫もな!」

「さっさ帰れ!」


 ()(えん)(りょ)な物言いは、むしろ仲のよさをあらわしていた。

 学校をでて、およそ五分。

 三人だった下校メンバーは、こうしてふたりになった。




「ところで……」


 いいかけた薫に、歩邑がかぶせた。


「やーだよ」


 半分だけふり向いてケラケラと笑う。

 いっぽうの薫はヘタレた声をあげる。


「み~な~が~わ~」

「なんだい? 薫くん」


 あえてシャンとして歩邑は答えた。


「返してくれ~」

「お・断・り・し・ま・す」


 ふり返りざま(ひと)()し指をたてた左手をつきだし、ビシィ! とポーズを決めた歩邑。


――ああ、遠ざかるわが家


 返してくれとすがる薫が、歩邑のうしろをついていく。

 コントのようにやりとりをくり返しながら、ふたりは商店街をゆっくりとすすむ。




――本屋をすぎたな、お遊びもここまでだ


 商店街をぬけると歩邑の家はすぐそこ。

 リュックをとりかえす時間がきた。


「後悔させてやる! (みな)(がわ)歩邑」


 謎のキャラふうのセリフも板についてきた薫がさけぶと、それが合図だった。

 うれしそうに、はにかんだ歩邑が逃げる。

 薫が猛ダッシュで追った。


――かけっこなら勝てる! もうちょい


 薫は身長のわりに、ずいぶんと足が早かった。

 ぐんぐん距離がちぢむ。

 あと数センチ――とつぜん歩邑が視界からきえた。


「修行が足りないのだよ、フフン」


 背後から声がした。


――なん……だと……


 歩邑は標識のポールに腕をかけ、ぐるり回ったのだった。そして薫のあたまにリュックを落とす。


「ドスン」

「お、(おも)っ……くなかった」


 効果音つきのアクションに(せき)(ずい)反射した薫が、すぐさま(てい)(せい)した。


「中身ほとんど入ってないじゃん?」

「そーだった……」


――置き勉主義者の荷物はすくないのだ


 薫は手を伸ばしてリュックをつかむ。


――仕返し! ってか届かないか。くそ~


 身長的に無理とあきらめてリュックを()()う。

 ニヤつく歩邑。




 ついにコンビニまできた。

 すぐさきの信号がお別れの場所だった。

 横断歩道をわたった向こうに歩邑の家がみえる。


「ここでいいよ。薫バイバイ!」


 歩邑は赤信号でたちどまる。


「またあした」


 そういってまわれ右する薫。

 きた道を引き返していく。

 知らず知らずのうちに早足になっていた。


――ったく……しいから困る


 と、なにやら小声でつぶやく。

 このとき薫が浮かべたフクザツな表情は、電柱の(かげ)からのぞく歩邑にはみえなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ