Story 13. 気になるアイテム
「駄菓子屋をおさえー、堂々の一位は……薬局」
ぱちぱちぱちぱち――
「わあ、おめでとー」
「ゴザイマース!」
――バレー部のノリ!
これに相乗りって? マジか……
不安をおぼえつつ薫も盛りあげた。
「パンパン、パーン」
満足したひまりがしめくくる。
「じゃあ、四時半に! 薬局でー」
「今日かよ!」
薫のツッコミに返したのは歩邑だった。
「あしたは練習だから」
「ああ、バレー部の」
つられて苦笑した薫。
――てか、三〇分後かよ……
「シー・ユー」
と佳奈が、ひまりの背中に走っていく。
歩邑も薫のあたまにポンと手をのせ、
「ではのちほど、薫くん」
と足早に退散した。
班会議ではじめて知った――ひまりの意外な一面、そしてバレー部トリオの阿吽の呼吸。
薫はなんだかワクワクする気持ちにとまどいながら、リュックを肩にひっかけ教室をあとにした。
さえぎるもののない日差しがきびしい。
南向き店舗のドアガラスが、きらきらと反射していた。
駐輪場は入口のわきにある。
――はやく着いてしまった……
五分で帰宅した薫はたちまち宿題をおわらせ、四時二〇分には薬局にいた。
――めっちゃ楽しみにしてそーじゃん
楽しみにはちがいない。
とはいえ、あからさまに行動にでているとなると――ちょっと照れくさかった。
私服通学ゆえに制服から着がえる必要もなく、いや制服だったとしても小五男子は着がえないかもしれないが、ともかく――
「一〇分もはやく来てしまった……」
自動ドアをひとつ入ったホールに、クレーンゲームとガチャポンがあるのがみえる。
――調査しなきゃ、だな
プライズに興味のあった薫は、店内にすいこまれた。
流行りのアニメやゲームのキャラクターが、ずらりならんでいる。
そのなかにひっそりと、しかしひときわ異彩をはなつ――野菜をデフォルメしたマスコットがいた。
――かわええ
「かわいい……」
こころの声が口にでたかと思わず手でふさぐ――が、ちがった。
いつのまにかとなりにしゃがんた歩邑が、プライズの写真をのぞきこんでいたのだった。
「だろ?」
意見が一致したことが、すなおにうれしかった。
「ほしいかも! ん~」
「一回、三〇〇円か……」
――おやつといっしょじゃん
さいきんの物価上昇により、おやつは三〇〇円程度といわれた今回の遠足。
親から千円札を一枚もらってきた薫だった。
「にんじん~」
と歩邑は、けっこう気に入ったらしい。
ほかにも、だいこん・キャベツ・たまねぎ・トマト・かぼちゃ・じゃがいも――全七種類のガチャポンだった。
薫がまじまじと見入っている。
「かわいいの、好きなの?」
「うん……癒し……」
ハートをキャッチされていたのは、むしろ薫のほうだった。
あっさりとみとめた態度に、歩邑は新鮮さを感じている。
「ぬいぐるみ、部屋にかざってたり?」
「でっかいのはニガテで……ちいさいのなら」
――何個か……ある
トークテーマが予想外へと転がり、歩邑はテンション爆アゲだ。
「ちっちゃいのも、おっきいのもいっぱいあるから、家にみにおいでよ!」
――招待され……た?……
「あー、うん?」
――どんな顔すればいいんじゃい
くちもとがゆるみそうなのをこらえて、むしろゆがめる薫だった。
歩邑は瞳をかがやかせている。
「みーっけ! かくれんなって」
見上げると佳奈だった。ひまりもうしろにひかえている。
自転車があるのに姿がみえないことで、店内に入ってきたらしい。
「じゅんびはいいかなー?」
最上級の笑顔で、ひまりがきいた。
うんうん――とうなずいて歩邑と薫がたちあがる。
「おやつは三〇〇円程度、かぶりは許しまーせん」
仕切るひまりが再確認した。
「――では最重要任務、買い出しにいきましょー」
時間ぴったりの四時半、一行はふたつめの自動ドアをぬけた。