天才
自分は天才なのかもしれない、でなければこのような打開策は思いつかないだろう。あまりの自分の閃きに自信で満ち溢れてきた。
「何言ってんのよ、治せるわけないじゃない」
「やってみなきゃ分からないだろ、それに俺は昔学んでいたからな・・・」
「まさか医療関係の学校に?」
「そう俺は医療関係者だ」
「嘘だ!」
全く信じていないのが伝わってくる冷めた目で俺を睨んでくる。たが、俺は嘘は言っていない。
「俺が昔住んでいたアパートの隣の部屋に歯医者を目指していた学生がいたんだが、俺はそいつと仲が良かった。友人と言っても良いぐらいにな」
「どこが関係者よ!」
「関係者だろうがよ!俺はその学生とアパートで会うたびに会釈してたし、たまに天気の話もしてたんだぞ!」
「それのどこが友達よ!」
こいつ俺の友達を否定しやがる。まあ良い、嘘はついていないのだから。
「とにかくだ、俺の医学知識で花粉症を治してやるからまず症状を教えてくれ。」
「何であんたに言わなきゃいけないわけ?」
くそっ、こいつ本当めんどくさいな。
「良いから教えろよ」
「分かったわよ」
よし、良い流れだ。
「季節にもよるし、特に春先かな?、鼻水が止まらないのに鼻が詰まって目も痒くなるわ。」
うん、俺の良く知っている一般的な花粉症で間違いないようだ。どう治したものか、鼻が詰まるというならとにかく鼻水を出せば良いはずだ。
「よし、これを吸い込んでくれ」
「何よコレ?」
俺はおもむろに鞄から粉を取り出して見せた。
「まさか、怪しい薬じゃないわよね?」
「いや、ただの胡椒だよ」
「は?」
「胡椒を吸い込んでくしゃみをして鼻水を出せば鼻詰まりは治るって寸法さ」
小娘は固まって声も出さない。どうやら俺の完璧な閃きに声を失ったようだ。
「あなた、小学校は卒業した?」
「してるわ!」
「胡椒でくしゃみしたところで鼻水がそんなに出るわけないでしょう?バカなの??」
「あのな、胡椒にはピペリンという刺激性の物質が入っていてそれが鼻に入ると鼻はピペリンを追い出そうとして反射的にくしゃみが出るんだよ」
「何でそこだけ賢いのよ」
あんまり小学校卒を舐めないでもらいたいものだ。
「とにかく一回やってみてくれ!俺は本気でお前の花粉症を治したいんだよ!!」
「・・分かったわよ」
「よし、俺が胡椒を袋に入れて渡すからこのストローで鼻に直接吸い込んでみてくれ」
「それ、本当に胡椒の話よね?」
「そうだが」
文句を言いながらしぶしぶやってくれることになった。成功すればやっと誘拐が進められる。
「いくぞ、一気に吸い込めよ」
俺の呼びかけとともに小娘は一気に胡椒を吸い込んだ、その途端咳が止まらないようだ。
「良い咳だ!」
俺は思わず叫んでしまった。よほど効果があるのか小娘は涙を流している。
「そうか、泣くほど嬉しいのか!」
「胡椒のせいで涙が出てるのよ!ケホッケホッ、鼻が痛いわ」
それはそうだ、よく考えれば鼻から胡椒を吸って痛くない訳がない。涙が止まらない様子で辛そうなので俺は声をかけてやることにした。
「目からよりも鼻から水を出して欲しいのだが・・」
そう言った途端パンッという音が響き渡った、俺はビンタされた。