誘拐
薄暗い地下室でただひたすら汗が滴り落ちる。第一段階には成功したが、むしろこれからが本番なのだ。手が震えないように、声が震えないように、もう一度決め台詞を練習する。
「お前の娘を誘拐した。身代金を用意しろ。」
完璧だ。このセリフを言われて焦らない親はいないだろう。そして、焦れば焦るほど高額な身代金を引き出せるというものだ。
「よし、やろう」
入念な確認を終えた俺は今回のために用意した固定電話の受話器に手をかけ電話をかけようと・・・
「ゔぅー!ゔゔゔ!!!」
後ろから突然唸り声が聞こえた。どうやら誘拐した娘がすぐ後ろで叫ぼうとしているらしい。手足を紐で縛り口をテープで完全に塞いでいるので何を言っているかは分からないが、無視をして電話をかけようとすることに
「ゔゔゔ!!!ゔゔゔゔ!!!!」
「うるせえな!」
思わず怒鳴ってしまった。このまま電話しても調子が狂うので黙るように説得することにした。思いっきり素早く口のテープを外す。
「おい、黙ってろ!今からお前の家に電話するんだよ!!さもないと痛え目に合わせるぞ!!!」
「いや、私はっ」
何か言いかけたが聞かずに再びテープで口を塞いだ。苦しそうにしながら睨んでくる。
黙らせることに成功したので気を取り直して受話器に手を・・
「ゔゔゔゔゔ!!!!!」
どうやら懲りていないようだ。思いっきりテープを外した。
「てめえこのやろ・・」
「話を聞いてよっ!!」
生意気にも娘はそう叫んだ。時間が惜しいのだがとにかくこいつを黙らせたい俺は話を聞いてやることにした。
「なんだ遺言か?一言だけ聞いてやる」
「私花粉症で鼻が詰まってるからテープをされたら息ができないの!」
「は?」
地下室のどこかで落ちる雫の音がしばらく続いた沈黙の中響き渡った。