表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/43

短剣の切先

 少し時間は経ってしまったが、私たちは客間に戻った。

 すると出かける前と同じようにジョセフもミューラリーも待っていた。


 特にミューラリーの顔には何も動揺するところがなく、さすが国家第一席音術師といったところか。


「ずいぶん血だらけだな。揉め事なら他所で済ませてきてくれないか?」


 ぬけぬけと、ジョセフはそんなことを言う。


「あの程度は揉めたうちに入らないさ。まさか、この程度でビビってるのか? カイードル卿ともあろうお方が」


 ディミトリの挑発にジョセフは青筋を立てるものの、それ以上の反応はない。

 彼もずいぶんと肝が座っている。


 ディミトリは腕をテーブルの上に投げ出した。

 袖をまくると、そこにはたくましく健康的な腕がある。先ほど折れたとは思えない。傷一つない腕だ。


「改めて言おう。俺たちであれば第二皇子を助けられる。それに今回は格安で請け負ってやる。初回限定だ」

「商奴風情が」


 ディミトリの軽口に、ジョセフは吐き捨てた。

 おそらくジョセフはこちらの身元をわかっているのだと思うが、こちらは商人ということで通すつもりなのかもしれない。


「どんなトリックかは知らないが、確かに腕は治っているようだな。しかし、何度もいうようにパル様は遠征中だ。何を言われたところで——」


 ジョセフはそもそもパルを救うつもりはなく、彼にいくら交渉を求めても仕方がない。

 だからこそ別の人間と交渉することが必要で、そして交渉に足る人物は自らやってきたのだった。


「待ってくれ!」


 部屋に入ってきた、明らかに高位の衣を纏った男。

 見覚えのある女のような綺麗な顔。


 シャルル・メルバーティ。

 リズ・ブラックヴィオラに婚約破棄を突きつけた、ノーザウン帝国第一皇子。


 息を荒くして顔を紅潮させる様は高貴な男に相応しくない。


「そ、その話は本当か!?」

「シャ、シャルル様! いま大切な話をしておりますので、出て行ってください」

「パルを助けると聞こえたぞ」

「素性の知れぬ人間の世迷言です」

「素性の知れた人間に何もできないのであれば世迷言も必要だろう!」


 シャルルはパルの意識が戻らないことを誰よりも悲しんでいる。

 それはメロディアスキングダムのゲームの中でもそうだったが、目の前にするとより迫力があった。


「なりません。そのものたちがパル様に危害を加えないとなぜ言えましょうか」


 そっけない対応のジョセフにシャルルは歯を食いしばった。

 どうにもならないと踏んだのか、シャルルは私たちの方を見た。


 そして、やや視線を泳がせた上で、その焦点は私に合った。


「……おまえは……」


 まるで、何かを思い出そうとするように。

 私を至近距離で覗き込み、人形のように目を見開いた。


 彼は指先を震わせながら、私の頬に触れようとした。

 その手を、ディミトリが掴んで止めた。


「おい、無礼だぞ!」


 ジョセフが言うと、ディミトリが睨みつけた。


「仲間は商品じゃないんで、勝手に触れられたら困るんだ」

「し、失礼した」


 シャルルは慌てて手を引っ込めた。


「なんだか、知人のような気がしたのだ。気を悪くしたなら謝ろう」


 シャルルは、わかるのだろうか。私が幼馴染で、自ら婚約破棄を告げた相手であるリズ・ブラックヴィオラだと。


 認識阻害(モザイカル)ごしに、彼は何を見たのだろう。


「頼む。もしパルが助かる可能性があるのであれば」

「パル様が殺されたらどうするのです——」


 ジョセフのその指摘はごもっとも。

 私が得体のしれない馬の骨であったとしても、ノーザウンのご令嬢だったとしても、ザイレントの皇太子妃だったとしても、シャルルの態度は間違いだと思う。


 私は素早くシャルルの腰の短剣を抜きとり、それをシャルルに突きつけた。


「おい! 何を!」


 慌てるジョセフを手で制す。

 シャルルの様子を見ると、彼は現状も認識できず不思議そうに剣の先端を見ていた。少し待つと、やっと認識できたのか「ひゃあっ!」と慌てた声を出して尻餅をついた。


 別に何かをするつもりはない。

 ただ手近な凶器を借りただけ。


 私は刃を自分に向け、柄をシャルルに差し出した。

 剣先そのまま、剣先に自分の喉を近づける。


「常に私に刃を突きつけておくと良いでしょう。おかしなことをしたら即座に殺すんです。いかがですか」

「……いや……いい。パルを見てくれ」

「あれれ? パル皇子は遠征中だったのでは?」


 私はジョセフに視線を流した。


「……言葉のあやだ。見るといい」


 ジョセフは素直に頷いた。

 わかってるね。

 刃は私に向けていたとしても、いつでも誰に対しても向けられるってことなんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ