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嫌なこと

「待ってくれ、本当に知らない!」


 壊されては回復を繰り返すプロレスラーの口からは、黒幕の名前は出てこなかった。もしかすると本当に知らないのかもしれない。

 ただし。


「俺たちは傭兵なんだ。ただ上から依頼を受けて必要な戦闘を行うだけさ。ノーザウンの騎士にだって引けをとるつもりはないが、おまえらの強さは異常だ」


 国から仕事をもらう傭兵なのであれば、練度の高さは頷ける。


「おまえらの奇妙な術はなんだ? なぜ俺の腕は治ってる?」

「さあな。幻惑でも見たんじゃないか? もういけ」


 ディミトリは縛り上げた敵の全員を逃がすようだった。


「いいんですか?」

「依頼主に失敗がバレればこいつらは殺されるかもしれない。わかるな?」


 つまり、私たちの排除に失敗したことの証拠隠滅を彼ら自身にやらせるということだ。そうしないと彼ら自身の命が危ないから。金で雇われた傭兵ならばそう動くのだろう。

 なんという効率的差配!


「ディミトリ様って、けっこう悪どいですねぇ」

「まぁな。幻滅したか?」

「まさか」


 なぜなら私は、悪役令嬢。

 その相手役であれば、悪どいくらいがちょうどいい。


  ◆  ◆  ◆


 野営用のテントは限りがあり、尚且つマイカはハイドルト家の令嬢だ。

 雑に扱うわけにもいかず、この日は私と同じテントで寝泊まりすることにした。ディミトリは私が危険だと反対したけれど、しかし男ばかりのテントに彼女を放り込むわけにはいかない。

 

 メロディアスキングダムでは、マイカはリズの取り巻きの筆頭だ。仲がよかったはずだけど、私が転生した直後は少し刺々しい態度だった。彼女がいま何を考えているのかはわからない。


「ねぇ、リズ。本当に、リズなんだよね?」


 私たちは寝転がりながら、話していた。別人だと言い張ることも、もはや意味なんてない。ここには私とマイカの二人しかいないのだし。

 マイカの方を見ると、彼女は涙を浮かべていた。


「よかったぁ。会いたかったんだよぉ」


 少し涙声になるマイカに、私の心まで揺さぶられる。

 なんだかわかるのだ。私の中のリズの心が。マイカとリズは、ちゃんと友達だった。


「私も会いたかったよマイカ」

「あのね、本当に会いたかった。あって謝りたいと思ってたの。本当に、ごめんね」

「なにが?」

「……いや、ね。私が悪いんだけど。カノンの言うことを信じちゃって」


 カノンの言うこと、というのは、端的に言えばリズへの悪口らしかった。


 曰く、リズ・ブラックヴィオラは神の遣い(ミューレリック)に選ばれるようにコネを使うなど、将来の皇妃という高い身分を笠に着る横暴が散見された。確かに努力家で高い能力も認めるところではあるが、学園で少しずつ孤立していったとのことだった。

 それにマイカも加担したのだと。


「でも、リズに失踪して欲しかったわけじゃないよ? 言っても信じてもらえないかもだけど」

「ううん。私、なんなら追放されてよかったと思ってるから。ザイレントでの生活も、楽しいんだ」

「……そ、それなんだけどさ」


 マイカはなぜか声をひそめた。


「ディミトリ様とは、どんな関係なの?」


 ディミトリ様の役に立ちたいのです。

 そう言ったときの、マイカの表情が頭に浮かんだ。彼女はきっとディミトリが好きだから、きっと私の言葉は辛いものだろう。


「婚約者だよ」

「へ、へー」


 なんでもないことのように返事をしたマイカだけれど、次第に涙が浮かんでそれはとめどなく溢れた。


「ご、ごめん! 泣くつもりなんてなかったんだけど」


 私は彼女の涙に掛けてあげられる言葉なんてないことに気がつく。

 彼女は涙を拭って続けた。


「私、ディミトリ様とはお見合いで何度か顔合わせしたことあるくらいなんだけど、でも、本当に格好いいなって思ってただけで。ぜんぜん相手にされてないんだけど。本当に、わけわかんない。もう、ほんとに」


 マイカ自身折り合いのついていない言葉。

 私とディミトリの結婚は本当に決まったわけではない。しかし、それを言っても彼女を救うことにはきっとならない。


 マイカは可愛らしい少女だ。

 それに、家柄もいい。


 次のお見合いでもまた素晴らしい相手が見繕われるに違いない。

 しかし、マイカはディミトリを手にいれられない。


 きっとどんな言葉でも、私の言葉が彼女を癒すことはないだろう。


「あーあ。やっぱりリズは違うなぁ。だってノーザウンにいた頃は皇子様の婚約者で、ザイレントでもまた王子様と婚約なんて。きっとリズは、そういう星の下に生まれているんだね」


 きっとマイカは、メロディアスキングダムを知らない。


 もし星なんてものがあるとして。

 リズにはリズの役割があるのだとすれば。


 リズは悪役令嬢で、最後は誰かに一番いいものを奪われる運命だ。


 マイカにあてられてしまったからか、なんだか私は急に寂しくなった。

 私は何を手に入れたとしても、失うことの方がずっと嫌だ。


「マイカ……お願いがあるんだけど」

「何よリズ。弱々しい声で」


 私はこの世界に来たばかりだけど、リズを通じてマイカを感じることができる。

 だからこの本心が、きっと通じると信じて。


「ずっと、私の友達でいてね」


 なんだかマイカはまた勢いよく泣き出して、寝転がっている私に覆い被さって抱き合った。

 きっと彼女は泣き虫で弱い、いい子なのだろう。

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