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自由と誓い

 最初はマナが見えなかったとしても、触れたり、あるいは実際に魔法にかけることで徐々に目が感覚を覚える。

 まったく素養がない場合を除けば、大抵少しずつ見えるようになるし、使えるようにもなる。

 ただし魔法は才能がものをいう。だから人によって到達できるところはマチマチだけれど。


 宮廷光師として先生になり、生活に張りがでてきたときのこと。


「ノーザウンに向かう。クーシャを借りても構わないか?」


 ディミトリが突然そんなことを言い出した。


「理由を聞かせていただいても?」

「俺は音術で操られていたのだろう。であれば、ノーザウンに確かめに行く必要がある」


 何者かがザイレントを陥れるためにディミトリを呪った。

 確かに一時的にディミトリは解放されたかもしれないが、しかし本質は終わっていない。


 なにせ音術の脅威は常にある。再び誰が操られるかわからないのだ。


「であれば、私がお供いたします」

「危険だ。おまえはノーザウンを追放され殺されそうになった身だ」

「ええ、ですがクーシャを連れていくというのは音術に詳しいものを連れていきたいとのことでしょう」


 ディミトリを操ったものがいる。

 それを確かめるためには、それに関するエキスパートが必要なのは間違いない。


 ザイレントで言えば、私についでクーシャ、ニコルは魔法が使えるとも言えるが、はっきりいえば比べるレベルにない。


「私がもっとも詳しいのですから、私を連れていくべきです」


 ディミトリは私の顔を険しい顔ではっきりと見つめた。

 また止められるのかな、と思ったがそうではなかった。


「……その通りだ」


 妙に素直だ。(バグ)を取り除いた効果だろうか。


「では、お供するのは私でよろしいですね?」

「ああ、わかった。ただし一つ、約束がある」


「……なんでしょう」

「俺から絶対に離れるな」


 前みたいに、にべもなく私の行動を止めるようなことはないけれど、それでもずいぶんと過保護な気がする。


「そこまで心配していただかなくとも、自分の身くらいは守れますよ?」

「……俺はおまえを失いたくない」


 失うことなんてないですよ。

 私は元聖女だから。


 彼は操られることもなく素直にそう言っているのだと思うと、どうしたって嬉しいじゃないか。

 

  ◆  ◆  ◆


「今回クーシャには残ってもらいたいの。みんなの魔法の訓練を、私の代わりに続けて貰いたくて」

「任せてください! きっちりお役目をまっとういたしますね!」


 荷造りを手伝ってもらいながら、クーシャにノーザウンに遠出することを伝えた。

 当然ノーザウンはクーシャの故郷でもあるので、ついてきたがるかと思ったが、そうでもないらしい。


「お留守番、寂しくない? 大丈夫?」

「まぁ、実家に顔を見せたい気持ちはなくはないですが、私は今の生活がとっても楽しいですから」


 よほどザイレントの水が合ったのだろうか。


「あの……私、得意なこととか、全然なかったんです。その、ずっとリズ様にもご迷惑をかけていたと思います」


 クーシャは使用人として、いつも身の回りのことをきっちりこなしてくれる。

 迷惑だなんてそんな印象はまったくないのだけれど。


「でも今は、リズ様に音術を教えていただきました。それはとっても楽しくて。私なんかが人にものを教えるだなんて、すごく不遜な気もしますけど、でも、とっても嬉しいんです」


 彼女の笑顔を見て、私は確信した。


「きっと私が戻ってくる頃には、みんなすごく上手になってるんだろうな」


 魔法は楽しい。

 それを知っている人が教えるのだから、上達しないわけがないのだ。

 

  ◆  ◆  ◆


 準備が済むと、私はさっそく馬車の旅となった。

 私はノーザウン生まれとなっているが、実際にそこで過ごした時間は半日に満たない。

 しかし、私にはノーザウンに向かう明確な目的がある。


「ディミトリ様。一つお願いがあるのですが」

「なんだ?」


「ノーザウンで、なんとか私をパル・メルバーティ様に面会させていただけないでしょうか」

「パル? 第二皇子か。理由を聞いても」


 この話は、対外的に知られていることだろうか。


「パル様が病に臥されていることはご存じですか?」

「知らんな。面の舞台で見ないなとは思ったが」


 ノーザウンからすれば、第二皇子の容態が悪いのは弱点になりうる情報なので、隠しているのだろう。


「彼はおそらく、このまま死にます」

「……ほう」


 荒道に揺られながらディミトリはぼんやりと外を眺めている。その表情から、考えを読むことはできない。


「病は音術によってもたらされており、つまりは呪術の類です。おそらくいまの私であれば、音術の呪いならば回復させることができるでしょう」


 ディミトリは私を見て、険しい顔で言った。


「それはザイレントの国益に適うのか?」

「……え?」

「第二皇子が死にかけているのは重大なことだ。その情報を使って揺さぶりをかけることができるし、大国であるノーザウンに対する攻め手になるかもしれん。そしてそれ以上に、おまえを第二皇子に会わせるのは危険を伴うだろう」

「いえ……しかし、パル様はまだ若いので、このまま死ぬのを見逃すのはあまりに……」


「リズ。もう一度聞こう。それはザイレントの国益に適うのか?」


 国益には、適う。

 多分だけど。


 ノーザウンは乙女ゲーム『メロディアスキングダム』の舞台で、そこでパルが死ぬことは第一皇子であるシャルルの闇落ちルートが確定することを意味するのだ。


 その先に待つのは、ノーザウンの暴走とザイレントの滅亡。

 だからこそ、パルを救うことが私の一番の目的だった。


 当たり前じゃん。

 私はディミトリのために、パルを助けようとしてる。


 でも、そうは言いたくない。

 人が一人死にそうになっていて、それを私が助けられそうっていうんだからさ。


 答えは出てるでしょ。


「そんなのディミトリ様が国益にしてください」

「……なんだと」

「私が第二皇子を助けるって言ってるんですよ。ディミトリ様は四の五の言わずに、それをいい感じに国益にする方法を考えるんです!」


 ディミトリは、ぽかんとしていた。

 その表情を見て、私はちょっといい過ぎてしまったかもしれないと恥ずかしくなった。


 しかしそれは一瞬だった。

 次の瞬間にディミトリは、晴れやかな顔で私を肯定してくれた。


「はは。まったくその通りだ」

「…………ディミトリ様」


「どうやら俺はまだ覚悟が足りていなかったらしい。リズ。俺はおまえのすべてを見届けさせてくれ」

「ええ……。もちろん!」


 ディミトリが、私の勝手を許してくれる。

 そうであるならば、私はそれに報いる必要がある。

 馬車に揺られながら私は、きっとザイレントを救ってみせると心に誓った。

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