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異世界天下統一物語  作者: シシトゥ
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4話 勝利

 青軍総大将の後政ゴセイは自分の目を疑っていた。敵の総大将であり敵国の姫が面前に迫って来る事に。だがその動揺もほんの数秒もかからず抑えた。彼は知性も武勇もある知勇兼備の将であったが一番の武器はどんな状況でも冷静になれる性格なのかもしれない。


 「……仕方ない。引くぞ。」


 後政は周りの側近達に言う。側近らは驚きの表情を見せたが彼らは後政の指示に間違いは無い事を知っていた。つまり後政が引くと言えばこの場はそれしか無い状況だと瞬時に悟ったのである。


 「全軍退却の銅鑼を鳴らせ。……本陣も当然引くが、殿部隊はこの人数では作れんか。」


 後政は数秒考え、そして側近達に退却の策を伝えたのであった。



 阿利奈アリナとその周りの騎兵達は青軍本陣の防衛線を突破しつつあった。その時、大きな銅鑼の音が青軍本陣後方から聞こえてきた。阿利奈はその音を聞いて瞬時に悟った。青軍退却の銅鑼だと。


 「青軍が逃げるぞ!総大将の後政を逃がすな!」


 阿利奈は叫んだ。その声に兵も呼応する。この勢いのまま背を追えばまともな殿部隊もいないであろう後政の背を突けると阿利奈は思っていた。が、防衛線を突破した彼女らが見た光景は思いもしない光景だった。


 「……流石青国筆頭武将か。」


 阿利奈は呟き、そして兵達に追う事を止めさせた。後政は確かに背を向けて逃げていた。いやおそらく逃げているであろう……だ。理由は、後政は精兵を連れて逃げているのでは無く、個人、集団とバラバラに逃げていたのである。その数は数十。そして全員が同じ様な恰好をさせている。とても全てを追える数では無かったのである。いやそれでも無理やり隊を分ければ追えなくも無いが、そもそも後政がその中に居る保証が無く、また伏兵が居た場合は逆に討たれてしまう。

 

 「追撃は無理か。……よし。本陣に火を点けろ!この戦場に黄軍勝利の狼煙を上げるのだ!」


 阿利奈の精兵達は青軍本陣の天幕に火を点けた。そしてその煙は戦場の両全兵に届いたのだった。


 

 黄軍本陣でその煙を見た一成いっせい達は歓喜に沸いた。


 「よし!歩兵部隊、騎兵部隊に伝令だ。我が軍の勝利だと。そして直ちに敵兵を降らせるのだ。これ以上兵を消耗してはならん。」


 一成よりも早く佐義サギが兵に指示を出していた。この辺りはやはり只の一般人だった一成よりも経験の差で判断が速かった。その後の戦後処理の対応をテキパキ行っている姿をずっと一成は見ていた。今後の糧に活かす為だ。


 「ゲームだと勝って終わりだからなぁ。現実になると勝ったからって浮かれてる暇は無いんだな。」


 そんな事を思いながら観察していると阿利奈と兵が戻って来ていた。そしてその後ろから背丈が2メートルはありそうな大柄な男が現れた。髭は長くは無いが、三国志に出てくる関羽を思わせる様な雰囲気を一成は感じた。


 「ほう……、お前か?突然現れた軍師ってのは?」

 

 大男は一成に向かって言う。この時一成は正直ビビっていた。昔不良に絡まれた事はあったがそんなのは比じゃ無かった。蛇に睨まれた蛙の諺を今身をもって体験していると言っても過言ではない。


「おっと、挨拶が遅れたな。俺は阿郁アフミと言う。一応この国の第一将って事になってるが……」


 第一将、つまりは武将の中でのトップだ。しかし阿郁は何かバツが悪そうな言い方をした。


 「最近そんな扱いになったが、そうなってからまだ手柄を挙げてないんだよなぁ。」


 阿郁は腕組みをしながら唸った。黄国は流行り病と敗戦続きで前線の将が不足しているという情報はこの世界に来る前に一成は神から情報を聞いていた。つまりこの阿郁はとりあえず武将として前線に出ており尚且つ活躍はしていたが、この様子だと彼は納得のいく評価では無かったようだ。


 「しっかりして下さいよ。俺はアンタに憧れて下に就いたんですから。」


 横から少し小柄だがそれでも一成より背の高い男が頭を掻きながら現れた。横からと言う事は彼は青軍奇襲部隊を強襲した部隊に居たようだ。


 「あんたが急に現れた軍師?伝令がいきなり来て『本陣に奇襲部隊が攻めてくる為後方に注意せよ』て聞いた時は耳を疑ったよ。んで実際来た時は目も疑ったし。」


 と笑いながら話かけてきた。歳は一成とあまり変わらない様に見える。


 「あ、俺の名は井憲イノリってんだ。阿郁様の副将をしてる。あんたの名前は?」


 陽気な雰囲気な井憲は一成に尋ねる。それに阿郁も聞きたそうに顔を向けた。第一印象は大事だと一成は息を吐いて自己紹介をした。


 「自分は……異大陸からこの国に流れてきた軍師こと一成と申します。……と言ってもまだ今回が初戦闘なのですが。」


 井憲は初戦闘と聞いてマジ?と言った顔をした。阿郁も当然驚きの表情をして近くに居た佐義を見た。それを受け佐義も「本当だ」といった表情を返した。それを確認し阿郁は阿利奈に言う。


 「よくそんな奴の意見……策を聞き入れたな。」


 「うーん……まぁ深い理由は無かったけど説明に筋は通ってたし、あとは勘かな?」


 阿利奈は笑いながら答えた。そんな会話をしながら一時の休息を取って数時間後、青国軍の動向を追っていた密偵が報告しに来た。


 「青国軍はこの先5里の所にある小城に集結しているものと思われます。」


 更に聞いた情報によると、その小城は元々黄国の城だったらしく攻め落とした後に軍を分けて今回の戦闘をしていたらしい。つまり留守を守っていた軍と合流し態勢を立て直そうとしているのは明らかだった。


 「立て直したらまた攻めてくるのは必定、……軍師よ、何か策はあるか?」


 阿利奈は一成に問いかけて来た。正直一成にとっては無茶ぶりも良いとこだった。しかし周りの視線は一成に対してどんな策が出てくるのか期待の眼差しであった。


 「……やるしかないか。」


 一成は頭を搔きながら困ったような仕草をしつつも顔は笑っていた。

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