七月九日 狙われる理由①
「そういえば私、メールの事件内容を読んだときからずっと気になってたんだけどさあ……聞いていい?」
「あ、はい、どうぞ」
片手でスマホを取り出しながら、権藤が高上の方に向き直る。
十歳以上も齢下の少女にタメ口を聞かれて、高上は少しムッとした。
新進気鋭の退魔巫女は、あまり目上に対する言葉遣いを気にしないらしい。
とはいえ。
それが自信の表れなら、それはそれで構わないと高上は考えなおす。
「この案件の被害者って、みんな同じ高校の生徒なんだよね?」
「そうですね。全員、明伊敷高校に通う生徒でした。新学期になる前は全員が二年四組だったという共通点もあります」
「元クラスメイト同士ってことね。もともと今回の依頼をしてきたのは、被害者の同級生の親なんだっけ?」
「そのとおりですよ」
ビジネスライクな敬語で淡々と答える高上。
その内容を聞いて、権藤が微妙そうな顔をした。
他のメンバーも同様の表情だ。
権藤がこの後なにを聞いてくるのか、高上には簡単に推測できた。
「その依頼人が、次に怪異に狙われそうな三人に護衛をつけるよう所長さんに頼んだってメールに書いてあるんだけどさ……これ、なんで?」
「なんで、とは?」
「いや、これおかしいじゃん。なんでその依頼人は、怪異のターゲットを知ってたの? その人は予知能力者かなにかなの?」
世間的には自然災害事故として扱われている連続落雷死事件。
次にそれに巻き込まれる人物を知っているというのは、なぜなのか。
そもそも落雷を怪異のしわざだと確信していないと、霊能事務所なんかを訪ねては来ない。
であれば、その疑問の答えはおのずと限られる。
「おそらくは、心当たりがあるんでしょう。怪異の正体か、もしくは被害者たちが狙われる理由に」
それ以外に考えようがない。
ここにいる誰もが、内心では同じ結論に至っているはずだ。
「心当たりって、どんなの?」
「依頼人は黙秘してます。詮索も禁じられました」
「なんなの、それ……人の命に関わる依頼をしてきてるくせに、重要な情報を寄こさないなんてどういうつもりなの?」
権藤が不服そうに吐き捨てた。
想像通りの反応に、高上は肩をすくめる。
被害者たちが狙われる理由。
それが分かれば、怪異の正体や対策方法を突き止められるかもしれない。
そんな重大な手掛かりを、なぜ依頼人は明かさないのか。
高上が抱いていた不信感を、権藤たちもこの場で感じたようだった。
「……とりあえず一つ一つ確認しようか。まずは今回の依頼人と護衛対象について教えてくれや。その依頼人ってのはどんなやつなんだ?」
照尾の問いかけに、高上は軽く頷いて答える。
「依頼人は、砂根兼汰。金融界隈ではそこそこ有名な資産家らしいですね」
砂根兼汰。
五月上旬に事務所を訪ねてきたその男のことを、高上は未だによく知らない。
本人があまり語らなかったし、聞かれるのを嫌がったというのもある。
もらった名刺を手掛かりにネットで調べたら、彼の名はいくつかの経済記事に載っていた。
経済に疎い高上には内容がいまいちよく理解できなかったが。
「ほう、名前だけは聞いたことあるぞ。成り上がりの個人投資家だな」
「その砂根氏の娘さんが、例の明伊敷高校に通っているんです」
「なるほど。ってことは……」
「ええ。その娘さんが護衛対象のうちの一人ですね。まだ生きていますが、今後怪異に狙われる可能性は極めて高いでしょう」
依頼人の砂根兼汰は、怪異から我が子を守るために高上の事務所を訪れた。
それ自体は、自然といえば自然なのかもしれない。
なぜ娘が狙われると知っているのか、という不自然さを除けば。
「砂根氏が護衛対象に指定したのは三人。ひとりは彼の娘さんである砂根稀香さん。そして残るは彼女のクラスメイトである羽田絵麻さんと八女揚羽さんです」
「……八女揚羽って名前はメールに書いてあったな。五月に亡くなった子か」
「ええ、千条さんを護衛に付けましたが、残念ながら返り討ちに遭いました」
嫌な記憶が蘇り、高上はそこでいったん言葉を切る。
業務提携する霊能力者が怪異に破れた。
そんな経験は、事務所を開業してから初めてだった。
今回集まったメンバーなら、同じ轍を踏むことはおそらくないと信じたい。
だが、それでも先の不安はぬぐえなかった。