七月九日 雷談義
事務所に集まった四人の霊能力者たち。
高上は最初に簡単な挨拶をしたあと、さっそく今回の案件の説明に入った。
連続落雷死事件。
その概要については、すでに協力依頼メールにあらかた記載済みである。
なので説明は簡素なおさらいと、多少の補足的なものに留まった。
ソファーに座ったまま高上の話を聞く四人。
あらかた説明が終わると、最初に口を開いたのはエクソシストの照尾だった。
「――ようするに今回の討伐対象は、雷を操る怪異ってことか?」
「そう考えています。偶然にしてはいろいろ重なりすぎてますし、修験者の千条さんが関わって失踪した以上、怪異絡みの可能性が高いでしょう」
「……雷ってのは、また厄介だな」
照尾が面倒そうに呟くと、陰陽師少女の権藤も大きく頷いた。
「古今東西、雷を操るのはみんな神さまレベルの存在だよね。タケミカヅチにゼウス、トールにインドラ……思いつくのは雷神ばっかりだよ」
「そうだな。あとはスラブ神話のペルーンに、アステカ神話のトラロックあたりも雷神だ。雷ってのは並みの雑魚怪異が扱える力じゃねえ」
まあそいつらは実在しないけどな、と照尾は付け加える。
キリスト教の神父である彼にとっては、どれも邪神扱いなのかもしれない。
「じゃあ、今回の怪異も神さまってこと?」
「もしくはそれに匹敵するヤバさの悪魔だろう。聖書偽典で言えば、バアルやフルフルあたりが雷を操る地獄界のレジェンドだ。まあそんな大物が日本にいるわけねえがな」
照尾と権藤は、雷に着目して今回の怪異の正体を考察していく。
そこに防衛術師のリミディが横から参戦した。
「日本だったらライジュウっていう妖怪もいるみたいだケド、どうカナ?」
「雷獣か……千条がやられるほどの格がある妖怪とは思えんな」
照尾の指摘にリミディが口ごもる。
高上の考えも照尾と同じだった。
千条は土着の悪神を何度も討ち祓ってきた修験者だ。
そんじょそこらの妖怪ごときに敗北するほどやわではない。
雷という要素抜きにしても、神に匹敵する強大な怪異が相手でなければ理屈に合わなかった。
怪異の正体についての議論はそのまましばらく続いた。
高上がそれを黙って眺めていると、それまでずっとやりとりに加わっていなかった自称言霊師の佐々木がようやく議論に割り込んだ。
「あの、私は詳しくないんですけど、そういうのって誰かの悪霊とか怨霊のしわざってことはないんですか?」
佐々木の問いに、権藤が肩をすくめる。
「話を聞いてた? 雷ってのは神とか精霊、あるいはそれに敵対する大悪魔級の存在が扱う代物なんだよ。人間霊がおいそれと雷なんて操れないってば」
「でも日本だと菅原道真なんかは死後の怨念で雷神になったんですよね? だったら人間霊が雷神に昇格する可能性はあるんじゃないですか?」
「道真公とは時代が違うじゃん。信心が薄い今の世の中じゃ、昔みたいに天神様に昇華されるような人間霊なんて出てこないよ」
「へええ、そういうものなんですねえ」
権藤の言葉に佐々木が納得の声を漏らす。
だがその横で、リミディが待ったをかけた。
「いま権藤サンが言ったコト、ちょっと違うと思うナ」
「どういうこと?」
「信心が薄い世の中デモ、大勢の人々が強く信じるコトで噂が現実になったりするデショ? ミームとかネットロアとか、日本語だとエーット……?」
「……都市伝説、ね。たしかにその線もあるかも」
リミディの提示した発想に、権藤が小さく頷く。
だが横から話を聞いている高上は、内心で首を横に振っていた。
現代日本で都市伝説が生まれるとしたら、ほぼ例外なくネット上だ。
そして高上はすでにネット上の都市伝説をあらかた調査している。
その結果、落雷で人を殺す怪異の噂は今のところ出ていなかった。
そのことを伝えると、リミディは少し残念そうな顔をした。
「都市伝説じゃないナラ、やっぱりカミサマのしわざってコト?」
「死んだのはみんな高校生だったよね。雷神さまにしろ悪魔にしろ、なんでわざわざそんな若い子たちを殺したりするのかな?」
「邪神に祟られたんじゃねえのか。おおかたどこぞの祠にでも入り込んで怒りを買ったんだろうよ」
とんとんと推測が進む。
ざっくりとした話し合いの結果、怪異の正体は暫定的に「土着の雷神」ということになったようだ。
事前に高上が抱いていた見解ともおおむね一致する。
それに仮想敵が雷神であれば、今後の準備で油断を招くこともない。
とりあえずはその認識で問題ないはずだ。
そうして怪異の正体を仮決めしたことで、議論は次へと進む。
次のお題は、怪異の目的。
すなわち、なぜ怪異は被害者たちを襲ったのか、である。