表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/48

七月九日 霊能斡旋事務所②


 あれは五月上旬のこと。

 高上はとある依頼人から「雷に狙われている三人の高校生を守ってほしい」という相談を受けた。


 当時から定期的にニュースになっていた、都内高校生の連続落雷死。

 それが超常的な存在、すなわち怪異のしわざだと依頼人は主張したのだ。


 そしてその怪異にこの先狙われる人間についても、把握しているという。


 最初にそれを聞いた時、高上は「この人は大丈夫なのか?」と思った。

 言うまでもないことだが、雷は自然現象である。

 警察や専門家もそのように判断しているとニュースでは言っていた。


 だが依頼人はいたって真剣だった。

 雷の標的となっている高校生たちの命を守りきり、怪異そのものを祓うことに成功すれば、膨大な報酬を支払うと書かれた契約書が高上に提出された。

 その金額を見た高上は、「これだけもらえたら名古屋にも支店が建てられるな」と思った。


 とはいえ。

 なぜ依頼人は落雷が怪異のしわざだと考えたのか。

 なぜ依頼人は落雷に狙われている人間たちを特定できたのか。


 そういった質問に対して依頼人は答えなかった。

 「事情を詮索するなら報酬は支払わない」と契約書にその場で一筆付け足して見せただけだった。


 なんだか妙な依頼だと訝しみつつも、結局のところ高上はその依頼を受けることにした。

 この依頼を解決できそうな霊能力者に心当たりがあったからだ。


 四国の霊峰に住む修験道の山伏、千条藤吾。

 数々の悪霊や怪異を祓ってきた、国内でも指折りの退魔師だった。


 普段から荒々しい山々の奥で修行に明け暮れる千条には、山神の力を借りて天候すらも制御下に置く秘術がある。

 そんな噂を高上は聞いたことがあった。

 ならば落雷の怪異とやらも、千条に任せればなんとかなりそうではないか。


 かくして高上は千条に連絡を取り、依頼の概要を伝えた。

 千条も二つ返事で承諾。

 地方の悪神を討ち祓った経験も多数ある千条にとっては、難易度がそこまで高くない仕事だと感じられたようだった。


 だが。

 結論から言えば、千条は怪異に破れた。


 依頼人が指定した三人の高校生たちを怪異から守るべく、高上は千条を含む三名の霊能力者をそれぞれ身辺護衛に付かせた。

 雇われたのはいずれも退魔方面に強いベテランである。


 そうして数日ほど護衛を続けて。

 五月二十日。

 高上が依頼を受けてから、最初の事件が起こった。


 事務所で報告を待っていただけの高上は、実のところあの日に何が起こっていたのかについて未だに詳しくは知らない。

 後に聞かされて知っていることは二つだけ。


 千条が護衛に付いていた高校生、八女揚羽が落雷で命を失ったこと。

 そして千条は現場から姿を消し、行方不明になってしまったこと。

 初の怪異討伐戦は大失敗で終わった。


 現場には、千条が退魔に使用する錫杖と、彼の右腕だけが遺されていた。

 千条本人は逃げ出して姿を隠したのかもしれないし、すでに消滅してこの世にはいないのかもしれない。

 どちらとも知れないが、確実なことは一つだけ。

 数々の怪異を打ち祓ってきた歴戦の修験者が、護衛対象を守れなかったのだ。


 そしてこの事件を境に、事態は悪化した。


 日本でも上位の退魔実績を持つ千条の退場。

 それは同業者たちにとって大きな衝撃となって伝わった。

 高上が抱え込むことになったこの案件の危険度が、全国の霊能者たちの間で瞬く間に噂になったのである。


 そうすると、なにが起こったか。


 まず、高上がすでに雇っていた二名の霊能力者が依頼をリタイアした。

 千条が破れた怪異に、自分たちが叶うはずがないという理由で。


 これを受けて、高上は新たな協力者を探さなければならなくなった。

 取り急ぎ手当たり次第に、旧知の霊能力者に電話をかけまくった。


 だが、誰もが用件を聞いた時点で即座に断ってくる。

 電話を取ってくれるだけでもマシな方で、高上からの電話と知って居留守を使う者のほうが多かった。


 それでも高上は根気強く、今度は全国の霊能力者たちに向けていっせいに協力依頼のメールを送信する作戦に出た。

 懇意にしている相手から、全く初対面の相手にまで。


 しかし、メールに返信を寄こしてくれた者はごくわずか。

 その中でも、ただちに協力を申し出た者はほぼいなかった。


 メールに記載のない情報を一方的に質問してきて、手に余ると分かるや連絡が途絶える者。

 怪異の正体について自分の考えをつらつらと書いて送ってくるだけの者。

 なかには「何度も同じメール送ってくるな。請けねえっつってんだろ」と怒りのメールをよこす者もいた。


 だが、それでも。

 ひたすらに協力依頼を発信しつづけた一ヶ月。

 メールボットと化しつつあった高上の熱意は、わずかながら天に届いた。


 たった四人ではあるが、協力の申し出を勝ち取ることができたのだ。

 そして今日、この事務所に集結する予定になっている。


 はっとして、ふと時計を見た。

 あと十数分もしないうちに、午後一時になる。


 高上の想定通りであれば、今ごろはすでに最寄り駅に客人たちが集結しているはずだった。

 この事務所の専属霊能者、仏教僧の周防が彼らを出迎えに行っている。


 大丈夫だろうか。

 集合場所に誰も来ていなかったりしないだろうか。

 あるいは土壇場で協力を断られたりしないだろうか。


 そんな不安で茹で上がる頭を冷房で冷やしながら、高上は一人静かに待つ。


 そうして待つこと、三十分。

 予定の時刻を過ぎ、まだ戻ってこないのかと高上が苛立ち始めたころ。


 がちゃり。

 鈍い音を立てて、事務所の扉が開いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ