七月九日 霊能斡旋事務所①
一時はどうなることかと思ったが、案外なんとかなるかもしれない。
今から会うメンバーを思い返しながら、高上ミハルは安堵の溜息を吐いた。
普段は節約のため起動すらさせていない冷房のスイッチを入れる。
これからこの事務所に、大事な客人たちを招き入れるのだ。
室内の不快な熱気を追い出して、迎賓の態勢を整えなければならない。
一人きりの室内で高上は、そわそわと気が逸るのを感じていた。
今日は七月九日。
初夏も過ぎ去り、本格的に気温が上がり始める頃合い。
この事務所が創業してから、夏を迎えるのはこれで五回目だ。
所長である高上は、この事務所を拠点に霊能斡旋をしている。
人智を越えたトラブルに悩む依頼人から話を聞いて、それを解決可能な国内の霊能者を紹介する仕事だ。
いわば依頼主と全国の霊能者をマッチングし、その手数料で生活しているわけだ。
高上自身にはまったく霊感はない。
だが縁あって、とある退魔師のもとで約六年ほど師事していた時期がある。
業界内では「親分」と呼ばれ、多大な影響力を持っていたその退魔師は、ある日を境に引退した。
高齢に伴う霊能力の衰えと、持病の悪化が引退の理由だ。
高上が事務所を開いたのは、元々は親分の勧めだった。
全国各で活動する霊能力者たちには、どうにも癖が強い者が多い。
依頼人とのコミュニケーションに難を抱えるがゆえに活躍の機会を得られない者たちも少なくない。
親分は現役時代のころから、そんな霊能力者たちと依頼人を円滑につなぐ存在が必要だと常々考えていた。
そこで親分は自身の引退を機に、それまで築いてきた国内の霊能力者たちとのコネクションを高上に全て引き継がせた。
そのうえで高上には、霊能斡旋事務所を開くように頼んだのである。
多くの弟子を抱える親分が高上をあえて指名したのは、無力なりに業界に関わりたいと願う高上の内心を知っていたからだった。
なにより高上は性格が比較的まっすぐで、人当たりが良い男だ。
荒々しい気性を持つ他の弟子たちでは、一般人を相手にする斡旋業は務まらないと親分は判断したのである。
以降、高上はそのコネを使って数々の依頼人を救ってきた。
斡旋を受ける側の霊能力者にとっても、地元密着になりがちな霊能仕事にあって遠方の大仕事を持ち掛けられることは大きなプラスになる。
これは霊能力が皆無な高上にもできる、業界への貢献だった。
そうして業界内でも評判を獲得し、依頼も続々と増えてきている。
今年で三十一歳の高上は業界ではそこそこ若い方だが、収入に関してはかなり高水準で安定していた。
秋には創業五周年を迎え、関西に支店を作る計画も持ち上がっていた。
そんな矢先だった。
死者五人を出し、未だに解決の糸口も掴めていない大難題。
事務所が始まって以来の危機ともいうべき、あの依頼を受けたのは。