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はじめに
人が最もこの世に未練を残す死に方とは、一体どんなものだろう。
比較的すぐに思いつくのはやっぱり「殺される」ことだと思う。
悪意による殺戮の対象となるか。
あるいは不慮の事故に巻き込まれるか。
いずれにせよ、天寿をまっとうできずに死んでしまった者は、この世に大きな未練を残すことになる。
では次点として、どんな死に方が挙げられるだろうか。
人によって様々な意見があるかもしれない。
だがあえて独断で決めさせてもらうならば、それはきっと「帰り道の途中で亡くなること」ではないだろうか。
帰るべき安息の場所。
そこで待っている最愛の家族。
そこへ向かう半ばにして命を落とした死者の魂は、きっと大きな悲しみに苛まれることは想像に難くない。
さて。
そう考えたとき、我々は気付くだろう。
今しがた挙げた二つの要素は、重複可能であるということに。
そういうわけだから。
人が最もこの世に未練を残す死に方とは。
「帰り道の途中で殺されること」である。