【そのに】つめとやり
くしゅほろ。の500文字シアター。
今日のお題は"つめとやり"。
プレゼンターは"萩野 花音"です。
イメージを巡らせて、おたのしみください。
その昔、戦争では槍を使っていた。
当時の物を見ても分かるように、当たれば痛みを味わうどころの話ではないだろう。
だが、今の私はその痛みを味わった唯一の存在に思える。
マニキュアがただひとつの趣味だった私には、たくさんの言葉が集まった。
最初は褒め言葉。しかし自ずと批判へ、そして根拠のない中傷へと姿を変えては、拳で殴られたわけでも、教科書をぶつけられたわけでもない痛みが私を襲う。
世の中のいじめと同じような痛みや不快感を感じながら生きた中で、いつしか逃げる術も受け流す術も忘れてからは、無心で動く針を見つめ勢いに任せた罵詈雑言を耳に吸い込んでいた。
「…!」
10年後。数えきれない程の傷を私に浴びせた男は、かつての旧友と出会ったかのような表情と声色を使い、軽い足取りで近づいてくる。
しかし、当の私は彼を視界に捉えた瞬間、かつての記憶が次々に甦るのを見た。
その昔、戦争では槍を使っていた。
あの時と同じ痛みは、もう与えられない。
しかし、現代には力よりも技術が遥かに優れている事を忘れてはいけない。
"懐かしいね"
純粋な感情を浮かべ、もっと近くで見たいと言わんばかりに近づくと、彼女は相手の頬へ、そっと、両手を添えて―
本日のシアターは24歳、現在はデザイナーとしても活動している"萩野 花音"。
学生時代にたのしんでいた自分の趣味が原因で浴びた罵詈雑言や暴力、嫌がらせの数々。
道中から意識がぼんやりとしながら、それでも人生をあきらめなかった彼女は、時間と共に理不尽な仕打ちを受けた日々を忘れて今を過ごしていましたが
自分を責めていた人間が目の前に姿を現すと、それだけで当時の記憶が鮮明に呼び起こされてしまうようです。
薄れていく記憶が形や色をはっきりさせた今、彼女がとった行動とは...
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今回のおはなしも、お楽しみいただきました皆様へ、ほんとうにありがとうございました。
不定期更新の500文字シアターですが、次回もよろしくお願いします。
それでは、またどこかでお逢いしましょう。くしゅほろでした。