【そのいち】マグカップ
くしゅほろ。の500文字シアター。
今日のお題は"マグカップ"。
プレゼンターは古林 夏登です。
イメージを巡らせて、おたのしみください。
きみのマグカップは何色?
そう聞かれた日のことは覚えていると思う。
世には十人十色という言葉があるが、まさかその言葉が目の前のあたたかいコーヒーを受け止める筒型容器に向けられるとは思っていなかった。
普通に考えてありえないだろ。なんて、パソコンに向かいながら何度も呟く。
彼のひとつの疑問を何度も、何度も繰り返すが、口にすればするほど意味が分からないのもめずらしい。
意味が理解できないのではない。意味が分からない。理解「以前」の話だ。
俺の知らない雑誌や芸能人がマグカップ占いを流行らせたのか、本当に彼にはマグカップを通して人の本質が視えるのか。
…俺のマグカップは何色なのだろう。
もし何色だったとしても、明るさは失われているだろうな
カタカタ。キーボードの入力音が部屋に響く。
「きみのマグカップは…」
「きみの、マグカッ、プ、は…」
らしくない。そんなか細い声も耳に届く。
どの時代が良かったなんて、今更興味はない。
ただ、世の中を取り込む度に黒ずむマグカップなら
いっそのこと、思い切り割ってしまいたい。
カタカタ、カタ。キーボードの入力音が止んだ。
数秒後、俺のすべてもやんだ。
「教えてくれ。俺のマグカップは、何色なんだ」
本日のシアタープレゼンターは21歳、将来のビジョンは見えていないものの、こつこつと文系の勉強を重ねる大学3年生"古林 夏登"。
彼は将来のビジョンこそありませんが、それでもこつこつと文系の勉強を重ねる努力型の人間です。
そんな彼がいつものように自宅で作業をしている時、脳裏によぎったのはある四字熟語。
「十人十色」に両手を引かれ、ひとりでは背負えず抱えきれなくなってしまうと、心なしかタイピングの間隔も広がっていっているように見えます。
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くしゅほろの500文字シアター。お楽しみいただきました皆様へ、ほんとうにありがとうございました。
書きたいことをつらつらと書いているだけ、不定期更新の500文字シアターですが、縁があれば、次回もよろしくお願いします。
それでは、またどこかでお逢いしましょう。くしゅほろでした。