さいきょうの使命
~魔王討伐談より~
その昔、この国には最恐の魔王がおり数々の悪事を行ってきました。
ですが、そんな魔王も勇者ディーンにより討伐されました。
魔王が倒れた日は、国を挙げた祭りが執り行われ、
多くの国民が倒れた魔王を囲んでいました。...
国の外れにて
国民A「おい聞いたか、山外れの集落が全壊しちまったてよ。」
国民B「あら本当かい。谷の大つり橋に続いて。また魔王様の仕業かしら?」
国民A「そらあそうだろう。あんな芸当出来るのは魔王様しかいねぇだろう。」
国民B「しかし、どうされてしまったのかねぇ?魔王様。」
国民A「いや、噂によるとだな、、、」
? 「オイ、今何と言った?魔王”様”だと?魔王に様などつけるな。」
国民A「何言ってんだ。魔王様は、魔王様だろ?そんなことお前がっ。
ヒッ何剣なんか抜いてんだよ。」
? 「口を慎め。我は勇者ディーンだぞ。まあ良い。」
国民A「なんだあいつ。あんなこえ~顔して。」
国民B「なんだお前さん知らないのかい...。今日王様直々に
命令が下されたのさ、あの子に。」
国民A「命令?どんな命令だよ?」
国民B「魔王討伐の命令さ。」
国民A「はあ?魔王様を討伐だと。そんなの馬鹿げてる。なにかの間違いだろ。」
国民B「谷の大つり橋の件での命令だとさ。」
国民A「それに、よりによってあいつにか?
オレが今からでも王様に文句を、、、」
国民B「よしな。考えてもみなさいよ。あの子が一番つらいに決まってる。
それでもあの子は黙って討伐へ向かった。
あんたのやろうとした事をあの子が望むと思うかい?」
魔王の間の前にて
勇者「ようやくここまで来たぞ。」
勇者「魔王よ大つり橋の件にてお前を討伐しに来た。」
ゆっくりと開く扉の先にいたのは玉座に座った魔王であった。
鋭いキバやツノに、鈍く光る冠はまさに魔王にしか見えなかったのだが
魔王「ようこそ勇者よ。我は最恐の魔王である。」
それは、覇気を感じぬ細い声であり何とも最恐を冠する魔王とは思えなかった。
そのあまりの弱々しさには、勇者も
勇者「どうしたのだ、その衰弱ぶりは。」
勇者が近づいていこうとした瞬間魔王は、玉座から崩れ落ちてしまった。
魔王「ちょうどいいハンデだろう。かかってこい勇者よ。」
勇者「おいどうした魔王?しっかりしろ。」
駆け寄る勇者。
魔王「滑稽だな。魔王にしっかりしろと言う勇者など。」
笑う魔王
勇者「何がおかしい。そんな様子なら当たり前だろ。」
「だって、だって。だってあんたは僕の師匠だろう。」
魔王「やめろ。我は、最恐の魔王だぞ。
勇者が魔王を師匠と呼ぶことなどあってはならない。」
「おまえが誰であろうと、我は、魔王としておまえを蹴散らすだけだ。」
よろよろと険しい顔で立ち上がる魔王。
勇者「うるさい。僕だってそうだ。あんたが誰だろうと、あんたは僕の師匠だ。
僕が誰だろうと、僕はあんたの弟子だ。」
「そもそも誰もあんたを恐れてなんかいない。あんたがした悪事なんて
全部この国を守るためだろう。あんたは、外の盗賊や自分以外の魔物を
やっつけてくれたじゃないか。皆と酒を飲んで一緒にバカ騒ぎしたり、
ケンカの仲裁に入って色んな人の仲を取り持ってくれたじゃないか。
そして何より親も兄弟もいなかった僕をここに招いて剣術や回復魔法を
教えてくれたじゃないか。」
「そうだ、回復魔法で今助けてやる。」
少し顔が緩む魔王。
魔王「ムダだよ。人の魔法じゃ魔物である我を癒すことは出来ない。」
「どちらにせよ、あのような小さな集落一つ消し飛ばすだけでこの様な我に、
最恐の魔王など続けられはせん。だが今頃国民は、我が最恐であることを
今一度思い知ったことだろうな。」
勇者「笑わせんなよ。集落を一つ消し飛ばしただ?あそこにはもう誰も
住んでもいなければ、数週間後には取り壊される予定だった。
あんたもそんなこと知っていたはずだ。大つり橋だってそうだ。老朽化で
落ちる寸前の状態だった。なんであんなことしたんだ、教えてくれよ。」
魔王「我が最恐だからだ。」
勇者「今さら称号のためだけに、そんなボロボロの体でムチャしたってのかよ?」
魔王「称号のためなどではない。我は、確かにおまえが言ったとおり
今までこの国を守ってきた。
しかし、我が最恐でなくなる日はそう遠くはない。
力を失った我にこの国を守ることは叶わない。
そして国王もそれに気が付いていた。」
勇者「じゃあ王様は弱くなったあんたを、今まで散々お世話になったあんたを、
切り捨てるみてえに僕に殺させようとしたってのか?」
魔王「それは違う。魔王討伐を国王に依頼したのは紛れもない我自身だ。」
勇者「え。。。」
魔王「我はこの国をこの先も守っていくためおまえに殺されることにしたのだ。」
勇者「何言ってんだよ、何言ってんだよあんた。」
魔王「我は最恐である。ゆえに最恐を倒し、超えた者は最強へと成る。
新たな最強の誕生によりこの国はこの先数々の脅威から守られるだろう。」
「そしておまえは、最強に成る者として我に選ばれたのだ。」
勇者「僕には無理だ。できるわけない。」
魔王「我は、おまえにやってほしいのだ。」
勇者「・・・」
魔王「我は、長い人生の中で昨日のように覚えているぞ。独りの寂しさに
負けないように自分を最強にしてくれと言ったおまえの顔を。」
「我は、おまえをそんなやわに育てた覚えはないぞ。教えただろう最強で
ありたいのなら常に気高く、自信を持てと。」
勇者「・・・」
魔王「大丈夫。師弟としての関係はこんなところでは終わらないさ。
魔王と勇者としての関係を今ここで終わらせようじゃないか。」
勇者「・・・」
魔王「そして成ろうではないか最恐と最強の関係に。」
勇者「・・・」
「・・・。我は、勇者ディーン。魔王、貴様を討伐に来た。」
互いに構える、魔王と勇者。
魔王「ようやくその気になったか。バカ者が。」
「ようこそ勇者よ。今一度言おう我は、最恐の魔王である。」
勇者「いざ勝負。」
魔王「来い。勇者ディーー-ン。」
~魔王討伐談より~
その昔、この国には最恐の魔王がおり数々の悪事を行ってきました。
ですが、そんな魔王も勇者ディーンにより討伐されました。
魔王が倒れた日は、国を挙げた祭りが執り行われ、
多くの国民が倒れた魔王を囲んでいました。皆涙を流しながら。