白旗の名の下に
海賊は単に海の盗賊だ。
そこで名乗りを上げるには、余罪を積み重ねていけばいい。強盗、強姦、殺人、etc...
重い罪なら名を残すこととなるが、俺にはそんな度胸はない。一応海賊を名乗っているが、海賊になりきれなかった紛い物である。
そんな自負が馬鹿みたいだが誇らしくもあった。まだ俺は潔白のままだと何にも染まっていない白いままだと誇張したくて。故に俺の海賊旗は真っ白だ。その海賊船の旗の色から付けられた名前がサレンダー号(降伏船)
最初は、罪を犯さずに名乗りを上げようと隠された秘宝なんてものを探そうとしていたが、これが想像を絶する船旅となった。
旅路の最中で自然の猛威に遭うは、同じ目的の者同士の殺し合いも船上で行るのだ。これは完全に俺の読みの甘さからきていると肌身を持って実感した。命からがら誰も殺さず逃げ延びると、そう安易な考えに至りにくくなったのはそんな経験からだ。それを思うと今の俺はとても賢くやっているのではないだろうか?
「あぁ、気持ちはわかる。でも、ここで手を引かないと損失はでかいぞ。奪える資材ならいいんだ。だけど、海賊には不正ルートの取り引きでしか手に入りにくい資材もある。その不正ルートもルートが不正なだけで、取り引き自体は公正だ。金はかかる。 今回お前が持っている資材は不正ルートじゃないと手に入りにくい。このままだと損失は必ず生むことになる」
三つの海賊船が水面に浮かぶ中、取り交わされる話し合い。海賊船アルトラ号と海賊船ジャメル号の間に挟まれるようにしてサレンダー号が浮かぶ。
白旗の海賊の船長、オリオールが立会人の元これに渋々了承した海賊の女性船長、メルサととっくに了承し終えている海賊の船長ヴァズの二人の前でここ、降伏船であるサレンダー号で高らかに宣誓を述べる。
「アルトラの海賊船長、メルサ。ジャメルの海賊船長ヴァズ。この二人の了承により、白旗の名の下に、両者の降伏が誓われた!」
澄み切った青空に響く降伏の誓いは、海賊の自由な海を謳う。ここファストナ島の岸辺はどこまでも真っ白な砂浜が続いている。3隻の海賊船はその岸辺に近い海原で碇を下ろし、乗組員達がファストナ島に上陸していく。この島は無人島ではあるが、存外綺麗な島である。
寄せては帰すさざ波に心が洗われるような気分になり、なによりも仕事終りの体を癒してくれそうだと思い。ハンモックを見繕おうと船長室に入ろうとするとつばのついた黒帽に燃えるような赤い羽根をつけたアルトラ号の女性船長のメルサが俺の行く手を塞ぐ。
「なんだよ、上陸しないのか?お前らの船員達は一足先に上陸しているみたいだが」横目で後ろにいるアルトラ号の船員を暗に示す。アルトラ号の船員達は久々の上陸だと白い砂浜を犬のように駆けずり回っていた。
「私は海賊の船長だもの、そんなので浮かれたりしないわ」
それでも凜とした顔つきは崩さずに女性はそう答えた。今も見据えるような緑色の瞳で俺を睨みつけるこの女性海賊の船長は、自覚があるのかどうかわからないが、悪魔のように美しい。
最初にこの女性と出遭った時はあまりの美貌に息の根が止まったほどだ。どこかの王女でいらしているのかと問いただすくらいに海賊が似合わない。
「貴方は海賊なのでしょう?白旗を揚げたまま航海する海賊なんて恥ずかしいと思わないの?」
どうやら、俺みたいな変な海賊を海賊の名折れと見たのか、女性海賊の船長はふっかけてきた。実に面倒だ。
「海賊は自由だろ?白旗を揚げようが海原で命を落とすまで俺は誰になんと言われようとも俺は海賊だ。」
「名声こそが海賊の最高の賛辞よ。貴方のは自称海賊。海賊ごっこならやめたらどう?」
なるほど、これは俺のことをよく知らないで調停を申し立てたな?恐らくアルトラ号の船員の中で頭の柔軟な奴が、女性海賊の船長に提案したのだろう。
よくやったと褒めてつかうアルトラ号の船員の誰か。ただし、この女性海賊の船長によく説明しきれていなかったから減点だ顔を上げてはぁと溜息をつくと吸い込まれそうな青に溶けていく。メルサは、その態度に怪訝な表情浮かべると大声で怒鳴りつけた。
「貴方みたいな海賊は海賊とは呼べないわ!この紛い物!!」
その罵倒は島に上陸していた船員にも聞こえていたのだろう。はしゃいでいた船員達がしんと静まり返る。
「やめとけメルサ、そいつは、立派な海賊だ。なぁ、オリオール?」
船内の踊り場で胡座をかいていた船長ヴァズが声を張り上げて仲裁をする。これじゃ、どっちが調停をしていたんだがわからない。
「立派かどうかは主観性に欠けるからなんとも言えんが。海賊ではあるつもりだ。」
そう言うと立ち塞がるメルサを通り過ぎ、目当てのハンモックを取りに船長室へ入る。
「やられたよオリオール。貴様の勝ちだ」踊り場からウァズの声が聞こえたのを横目に船長室のドアノブに手を掛ける。
「言っとくが、俺は最期まで潔白だ。精々死ぬなよ」
ウァズに船長室のドアを閉めた。
世界の海は海賊の統治により九つに分かれている。その統治に成功している海賊は全員実力者ぞろいだ。
統治している海賊にとって、領海を広げる為に争いをしかけることはざらにあるのだが、大海原での戦いは、いかんせん消耗が激しい。
資材であったり、人手であったり、金であったり、食料であったり、これらが限界に達っした状態で航海するものなら地獄を見る。
決して快適な航海は出来ないのが海賊だというリアリティを突きつけられると海賊に自由を夢見ていた船員達はやってられるかと次々と下りていく。
そんな奴等は甘ちゃんだ。海賊の自由は快適とはほど遠いところにある。
どこかでカモメが鳴いた気がする。
白い砂浜と押しては返す波。横たえて見える景色は朧気な夢のようで。霞ゆく世界は微睡みの奥深くへと誘われていく。
突然、視界が前後に揺れた。否、揺さぶらている。遅れて人の気配を感じ、横ばいの体を揺さぶられた方に向ける。
「人様の睡眠の邪魔をするなよ」
そこには身を屈めて退屈そうに顔を歪めていたメルサがいた。
「貴方、海賊なのね」
「わかればいいんだ」
ハンモックで寝そべったまま胸を張った。「変な海賊ね。死ねばいいのに」
「わかってないだろ…お前」
まったく、口を開かなければ美人なのに。残念な奴だ。
「ヴァズから聞いたわ。貴方領海三つ持っているんだって?」
「やらんぞ?」
「安心して、その時は貴方を殺して領海を奪うからねだるなんて阿呆なことはしないわ」
見た目によらず物騒な奴だ。
「それで、何のようだ?」
「殺し合いましょう?」
「はぁ?」
そう言うや否や、腰から短刀を抜き俺の胸に、その切っ先を向けて突き刺す。すんでのところでハンモックから転げ落ちるようにして、それを躱すと白い砂浜に砂塵が撒う。
その後、ビリッとハンモックに穴が開く音がした。資材は大事にしたいのに。そう思い立ち上がると腰から剣を抜く。
リーチはこちらのほうがある。両者睨み合ったまま今のところ動く気配はない。
「なんのマネだ?」
「貴方の実力を計らせてもらおうと思ったのよ。あの程度で殺されるようじゃ、いくら武力行使せずに支配していくやり方でもいずれかは死ぬような奴なのかもと思っただけよ」
済まし顔で、短刀を鞘に仕舞いながら何の悪びれもなく言ってのけた。
「それで、俺はいずれか死にそうな奴か?」
いきなりなにするんだという怒気は引っ込め、剣を鞘に仕舞うと冷静に聞き返す
「貴方みたいな海賊は死にそうね。だって人を殺せない目をしてるもの。私は人をこの手で何人も殺してきたわ。その剣もただの威嚇程度にしか映らないわ」
ふふっと鼻で笑い微笑する。可愛くない。つくづく嫌な奴だ。不満げな顔をしているのがわかったのだろうメルサはそれに反比例するように機嫌がいい。
「船長!!死んでないですか!?お怪我は!?」
あぁ、喧しいのが来たとポケットからタバコを取り出して咥える。
「よかった!大丈夫そうですね。はいどうぞ船長」
俺の近くまで駆け寄り無事を確認し終えるとすかさず俺が咥えていたタバコにライターで火を付ける。
じりじりとタバコの先端が赤く変色している間、サレンダー号の副船長であるアレンと先ほど俺を殺しかけたメルサとの言い争いを遠目からぼうっと眺めていた。
「いいですか!オリオール船長はいずれこの海を統一するお方なんですよ!」
そんな世迷い言をひとしきり話し終わるまで、俺は一服していたのだった。
夏の海は兎に角暑い。
蝕むような日照りが航海者を苦しませる。一番怖いのは熱中症。水は水でも塩水に囲まれているので飲み水の確保は重要だ。
航海中では、塩水を沸騰させて飲み水にするしかないが、島に上陸したとなれば淡水を探しに出かける方が火をつける必要がなくなるのでいい。
ライターも使い捨てだし、何分ヒヤリハットの可能性を夏場ではぐんと下げる事ができる。船自体が木製なので火を付ければ簡単に燃え移る。
夏場で飲み水欲しさに火を付けて何らかのミスで船一隻が呆気なく燃えてしまう事故が夏場では多く。
それで木炭となって海底へと沈んだ船から降りた船員達の顔を見たことがあるが、なんと夢は儚いものだと言わざる終えないような表情をしていたのを思い出す。
俺にそんな思索に深けさたこのタバコが悪いとライター分の飲み水をこの無人島で確保するべく川上を辿り歩いてる最中なのだが、何故かメルサが飲み水の確保に同伴している。
「お前船長だし、他の船員に行かせればよかったんじゃないか?」
「貴方がそれを言うのかしら?」
鬱蒼と茂る密林の中、細く流れている川を手繰るような足取りで懸命に上へ上へと登っていく。その間もぽつぽつと会話が交わされる。
「俺はライターをさっき使ったからその分の水を汲みに行くんだよ。自分が使ったんだから自分で補給しに行かなきゃ悪いだろう」
「やっぱり貴方は変わった海賊ね。大体の船長は部下使いが荒いのよ?」
「うちはうち、よそはよそだ。それにそういう船長は統計的に見て部下の反乱に遭って死ぬ確率が高いんだ」
「そのデータがどこから出ているのか気になるところだけど」
「………。」
ジロリと睨めつける視線を浴び、いらぬ事まで話したなと思い口を噤み黙々と歩を進める。
歩を進めるごとに険しい道のりへと変わり、息を切らしては整える事を繰り返し行う。
上流を目指して3時間程くらいか、川幅が広くなっているのに気付き、日が暮れる前には戻れそうだと大体の見当が付いた。
川幅とある程度澄んだ水を見てかメルサが目処を付ける。
「ここら辺で水を確保していいんじゃないかしら?いくらか水は澄んでるみたいだし、川上まで行くのはいいけど持ち運ぶのが大変よ?」
「いいや、駄目だ。見たところボウフラがまだ何匹かいる。沸騰させてもこの水は飲めない。なるべく上流で取るべきだ」
俺の言葉を素直に呑んだのか川を覗き込むようにして見たメルサが顔を渋くする。
「うわ…えぇ前言撤回よ。貴方の意見に同意するわ」
女性海賊とかは男性の海賊とは違い船上でも小汚い格好や生活をなるべく誤魔化そうと強めの柑橘系の匂いや小綺麗な装飾品を身につけて生活の質の向上に図ることが多い。
無論、旨い食べ物、飲み物は必需品でありながらモチベーションを高めるには効果的でよく酒樽を保有する海賊船があるのはそういった理由からだ。
しかし組織内で性的な問題が発生するのはぶっちゃけ海賊としては三流だと思ってる。
これはトラブル的な面でもマイナスにしかならない。女性海賊がいたら船内に連れがいるのは大体確実で浮気が発覚しようものなら船内で殺し合いが起きる人員の補充も楽じゃない。
まぁ結局、優秀で腕が立つ人物の尊厳が第一だ。腕が立たなきゃ男性であれ女性であれ良いように使われる。
そこに性が関与するかどうかの違いであり、無茶苦茶な海賊はそうした落ちぶれた性を貪るような習慣があったりする。
俺の隣で苦い顔している女性海賊の船長はそんな修羅の道を通り今の役職に就いているのだと思うとこの時代の尊厳は勝ち得るものだと改めて思う。
「意外だな。ボウフラ如きで戦くなと言って飲むのかと思った」
「幼虫がいるとわかって飲む馬鹿がどこいるのよ」
互いに軽口を叩けるくらいには話せているのでここから上流を目指しながら本題に入ろうとメルサの様子を伺いながら口を開く。
「それにしても、アルトラの修復は手痛い出費になりそうだな。ドンパチやり合った後の資材の調達や金の工面は大変だ。大砲の玉や火薬とか銃弾は消耗品だし、必ず戦利品で賄えるとはならないのが辛いところだ」
「そういう下請け業者みたいな働き方で成果を挙げる貴方みたいな海賊は本当に稀ね。消耗戦になった海賊同士の争いの間に入って一時休戦協定を貴方の海賊を含めた船長だけで挙げて、休戦に違反した海賊には違反された海賊の味方について攻撃を。違反せずに休戦協定に入った海賊はその状況に合った資材の調達や船の修復に関する情報の提示、貴方が買い占めてる資材との取引に案内するって流れでしょ。ヴァズから聞いたわ」
「ああ、よく知ってる御仁で手間が省けた」
「それでトラブルになったことないのかしら?ヴァズから聞くには貴方が買い占めてる資材は海賊で必要な資材の全体の七割よね?そんな膨大な資材を抱えてたら目をつけられるんじゃないの?」
「売り捌くのは別に海賊だけじゃないからさ」
「まさか、、」
メルサが驚愕に染まる声音で話すのに対して涼やかに告げる。
「政府御用達の拿捕船にも販売を広げてる。あれは海賊にとっては厄介だからな。俺等に危害を加える海賊がいたら政府御用達の拿捕船が追っかけて来る。政府側も海賊退治を仕事としているし俺等を守るのと引き替えに資材の三割を常に提供している」
「じゃあ、休戦協定を破った海賊が攻撃されるっていうのは政府の拿捕船がやるってこと?」
「まさか、一度消耗した船はそんなのなくても木っ端微塵になるように資材の供給と情報量にある程度制限をかけている生かさず殺さずだ」
「初めて貴方を相手にしなくてよかったと心から思ったわ。」
「これは、これはお褒めに預かり光栄だ」
大袈裟に言ってみたもののメルサの動揺が酷かった。
政府の拿捕船で有名なトップとなるとメルクス航海士、九龍航海士、セントール航海士、カイギュウ航海士、アリューシャン航海士の五人である。
海賊船の撃破数で言えばカイギュウがここではトップだ。火薬と大砲の数が並じゃなく、消費量もハンパなければ受注量もハンパない。
他の航海士は海賊から戦利品をなるべく取れるよう船にダメージを与えずに船員を倒すことを念頭に置くがこのカイギュウは海賊から取った物は汚いものだと毛嫌いして海賊船ごと沈めようと派手に大砲を打ちまくる奴だ。
実は最近トップとしてなったばかりで、正確に言えば、俺が政府側と取引を開始して間もなくしてその名が有名になった。
カイギュウ自体、欲に塗れた航海士で拿捕船の中でも一位の拿捕率を得て自身の地位と名誉と金と権力でモノを言う。航海士としては最低な部類に入る。
海賊から取ったものは汚いものだと毛嫌いするが深い因縁は特になく、数撃ちゃ当たるでバンバン打ちまくるっていうのが真相らしい。それの裏付けで俺との取引を大事にしている。
そりゃこっちではお得意様リストにすら入っているし大事なお客様ではあるがここ最近、暴走し過ぎているらしく俺との取引で生み出した新たな航海士のトップが今では暴君扱いを受けていて俺も航海士も手に負えなくて野放しにしてる。
「貴方、カイギュウとも取引を?」
カイギュウの資材の豊富さから察したのか、青ざめた顔で問うメルサに
『ご明察、カイギュウは俺が生み出した』
なんて言ったら海賊の敵と見做されて間違い無しだろう。
「まぁ需要と供給が一致したんだ」
「最低ね」
「政府側と取引するのはかなり難しいんだよその為に拿捕船を何隻か沈めたり、買い占めた資材が買い戻されかけたり、物流が止められたりあの手この手で俺の行く手を阻んではやり返しを続けて無事取引相手になった。これは努力の成果だ」
「カイギュウという暴君を生み出したのが貴方の海賊としての成果なの?」
メルサの詰問に戯けたように返す。「いやいや、俺はあんな海の暴君生み出してない自然発生だ」
「今更シラを切るつもり?」
真剣な口調で問い詰めるメルサに流石に誤魔化しは効かないかと思い悩む、海賊としての成果ね…言うまいか考えていたがそれを口にする。
「この海の全体的なバランスを考えるとああいう暴君が一人いないとな。カイギュウは俺からすれば駒みたいなもんだ。殺戮海賊と名高いウルシバラとぶつかってウルシバラが消耗もとい敗北すりゃ漁夫の利であいつの領海が手に入るチャンスが出てくる」
海賊と航海士が互いに潰し合う事はこの世の構図としてはよくある事だ。戦争も仲介者が儲かるように出来ているのと同じように。
「あのウルシバラを!?」
メルサの声が一際大きくなる。野望というのは尊大であればあるほど足下をすくわれ討ち滅ぼされやすくなる。何事も緻密な計画を立てることだ。
「そんな甘い見積りでいるの?ウルシバラと戦闘している船を見かけたけれどあれを一言で表すなら異常よ?ものの数分で百人近くいた船員を惨殺するのだから、あの光景が頭から離れないわ」
俯きながらこくこくとウルシバラの戦闘の異常さを俺に説明する。見積りが甘いという言葉を添えて
「そんな事よりアルトラの修理費だ。あれはどこぞの船長の見積りが甘くてああなったんだ?」
「あんたねぇ」
切れ長の目が此方をじろりとねめつける。
「時には引けない戦いも海賊ならあるのよあんたには分からないかもしれないけれどね」
突っぱねたように言い退けるとメルサが俺より先へと進む。
「ここを真っ直ぐでいいんでしょ?」
振り返り確認を促してくるので「そうだ」と一言告げる。
この鬱蒼としたジャングル地帯から抜けると川の畔が見えてくる。
「あったわ!水よ!!」
先に畔に着いたメルサの喜悦の声が響く。
「そこで水を汲んで帰るとするか」
あんまりもたもたするのも宜しくない。船を見張るように船員には言っているがもしものことがあれば船長なしで事態の終息をしなければならない。
それは何としてでも避けなければならい事態だ。そう思いタンクに水を入れていく。メルサも同様今まで背負っていたタンクに水を入れる。
暫しお互い無言になり水を入れているとメルサ以外の声が耳に入る。
「九龍さん!!ありました!水です!!」
声の出所から察するにこの畔を挟んだ向こう側だろう。焦りの顔色を浮かべたメルサが俺に視線を向けてくぐもった声で投げ掛ける。
「あんた、拿捕船とも仲いいんでしょ?なんとかしなさいよ」
いきなりの無茶振りだ。拿捕船の中で守衛の取り引きをしているのはカイギュウとメルクスだけなのにな、声の方向からして恐らく岩礁側から来たのだろう。
あそこからのルートだと道のり的には険しく水が目的なら遠回りになるはずだ。海図を手に入れやすい拿捕船がわざわざ遠回りとは、、
「それにしては様子がおかしい。警戒を怠るな」
これは一悶着ありそうだと腰につけてある剣に手を掛ける。九龍の手強さは海賊の中じゃよく知られており、つい先日にも6隻の船を拿捕している。
メルサのような無名の海賊じゃ投げ槍になるのもわかるし他の船員もいると来た。まさに多勢に無勢。出来れば戦闘は回避したい。
「え?嘘でしょ?ドンパチやり合うの?なんの為の白旗よ」
「自己防衛の為の白旗だ」
実際は何の理由であってもいい。それで己と船と船員が可能な限り守れるのなら人はそれを海賊と呼ぶのだから。
「おや、オリオールじゃないか久しいな」
密林から顔を覗かせたのは白髪の長い髪をした拿捕船の航海士、九龍だ。
「そうだな、それにしても何故こちら側から?水を汲むなら最適なルートがあるだろうに」
そっと剣に手を添えたまま九龍との会話をする。
「今、理由を聞いたかオリオール?」
九龍の顔が嫌悪感を露に口元を歪ませる。
「単なる疑問だ」
「それであろうとも不快だオリオール、そこの小娘は何だ?」
九龍の視線がメルサに向くとそれに相反するように俺と顔を見合わせるメルサ。砂浜で敵意の眼差しで此方を睨んできた時とは売って違い今じゃ捨てられた仔猫のような眼差しで此方を見る。なんとかねぇ
「こいつは俺の連れだ」
「オリオールの連れ?これは笑わせてくれる。海賊で無難な利益しか求めないお前が連れを作るとは、女にこれから金をかけるつもりか」
九龍の馬鹿にするような笑い声が上がると九龍の船員が大笑いする。それに何故か良い思いをしなかったメルサが密かに足を踏みつける。なんでお前が怒るのよ。
「オリオール、そこの娘なかなかの上玉じゃないか白旗の名の元に交換しないか?この娘とよ、おら歩け」
九龍の副航海士でゲスと有名な王真が鎖を引くと引っ張られて来たのは若い娘だった。
髪は金髪で緑色の柔和な瞳をしており繋がれた手錠と此方側をチラチラと見やる。九龍の拿捕船は人員の補強として拿捕した海賊から人をさらい奴隷にしている。
謂わば奴隷船という噂を巷では聞いていたがまさか本当だったとは、、この奴隷の一人も氷山の一角に過ぎないのかもしれない。
「そんな要求でいいのなら別に構わないが本当にそれでいいのか」
足を強く踏んづけらた。その痛みに耐えながら九龍の返答を待つ
「あんた、なに勝手に話を進めているのよ」
小声で俺に制止を促すメリサを取り引きで黙らす。
「あのゲスのおかげで風向きが変わった。これは戦場だ。もしこれが上手くいけば後でアルトラの修復を完璧にしてやる。だから今は黙っててくれ」
そう言ってメルサを黙らすと王真がすぐさま答える
「それでいいから早く、、」
「いや待て王真」
乗り掛かった王真を引き上げさせ、九龍が真剣に問う
「オリオール、お前は資材を豊富に持っているだろう」
「まぁ、有り余るほどには」
「そんな資材を豊富に持ったお前さんは女に飢えてると来た。そんなお前さんと1つ取り引きがしたい」
「あぁ、それは有難い」
メルサが信じられない目で此方を見る。黙って見逃してくれ、その間も九龍がつらつらと語る。
「俺等は血生臭いのに飽きて気分転換に
Rustblueを目指した。この世の果ての海だ。海賊のお前ならわかるはずだ。果ての海にはこの世を疑うような非現実的な楽園があるとな、そこを目指したが途中でドミニカフランツの船と戦闘になり海図を取られたんだ」
「ドミニカフランツか、そりゃ中々の大物海賊と出くわしたんだな、それで海図が欲しいと」
「話が早くて助かるオリオール」
こういう時は話の腰を折らず長々と話を聞くのが一番だ。例え非現実的な夢想家の話でも
「ただ、九龍、取り引きをする前にそこの娘の名前を知りたい」
「名前か?おい王真」
「はい、早く名乗れ」
鎖を引っ張られて娘が名前を口にする。
「ユタです」
ビンゴだ。
「ユタ、、聞いたことある名だな。もしかして姉妹か?」
「はい、姉はフレムと言いますが何故それを」
「おい勝手に喋るな奴隷のくせに!」
「やめろ王真、オリオール、もしかして一人じゃ飽き足らないというのか?ならそこにいる女も」
「勘違いしないでくれ九龍、俺は取り引きをする前に確認しただけだ、残念だが連れを寄越すほどの価値はその女にはない。妹でその面なら姉もきっと不細工に違いない。ただの奴隷2人と資源の取り引きだ。精々海図の1つが見合った公正な取り引きだろう。」
「仕方ない。おい王真、フレムを連れてこい」
九龍が王真を呼ぶと王真は後ろにいたフレムを引っ張り出し悲鳴が上がる。
「フレム!?」
姉を心配したユタが声を荒げる
「これでいいかオリオール」
「あぁ、これで公正だ九龍」
王真が2人を連れて畔の周りに沿って此方に近づいてくる。その間にリュックに入っていた海図を手にして王真が来るのを待つ。
やがて王真と対面すると2つの鎖と海図を互いに手放し受けとる。王真がその場で海図を開くと眺めるように見る。
「九龍さん、間違いないです。これは正真正銘の海図です。」
「よし、王真引き上げるぞ、オリオール、次からはお前好みの女を見つけて取り引きさせてやるそこにいる女に目もくれないような女をな」
「俺は飽きっぽいんだ。女が資材との取り引きになるかどうかはその時次第だ」
「今や奴隷船とうたわれる俺の船は必ずいい奴隷を見つけてくるだろう。もしまた奴隷が欲しいとなった時には俺に言え、オリオール」
「この広い海で会うことがあったらな」
九龍の船員が水を汲み上げて持っていき、
九龍達の姿が見えなくなっていくとメリサが
溜め息を吐く。
「これでアルトラを完璧に修復させてくれるのよね」
「俺の統治している国に資材がある。不正ルートから手に入る資材の情報もそこで教えよう、まぁ、それまで同行することになるがそれでいいなら」
「いいに決まっているでしょ、それとその奴隷どうするつもり?まさか、本当にそのつもりじゃないんでしょうね?」
2人の奴隷に視線を合わせてからメルサが此方を見て疑問視する
「嫉妬か?」
「どうやらその腹積もりのようね、この男から逃げるなら今のうちよ2人とも」
「勝手なことを言うな」
「その言葉そっくりそのまま貴方に返すわ」
「理由があったとしてもお前には教えん」
「あら、ならそのつもりね」
「それでいいもう、これ以上引っ掻き回すなメルサ」
「今までベラベラ喋っていたのに急にだんまりするのだからなぜと思ってね」
「お前の船を完全に壊す事が出来なくなった今、これ以上話すのはマズイからだ」
脅しを含めて牽制するとメルサの顔が強ばる。今までメルサにベラベラと喋り過ぎたツケが今になって回ってきてしまった。
どうせ後で船ごと沈められると思って話していた為に完全に油断していた。
「思ったんだけど白旗の名の元に~とか言う割にやっていることは欠陥付きの保証よね」
「最低保証だ。そこを履き違えて貰っては困る」
「あっそ、貴方とやり取りしているとなんか頭の固いお役所と話している気分だわとてもつまらないもの」
「別に面白くしようとは思ってないしな」
「その言い分だと面白い事を言えるけど言ってないだけみたいになるわよ」
「メルサ、お前とやり取りしていると井戸端会議が好きなおばさんと話している気分になる。とてもババくさい」
「とてもババくさいってなによ!さっきは連れだと豪語したくせに単に正論言われた腹いせでしょこの嘘つき男」
「今しがた証明してみせたぞ」
「なにをよ?」
つっかかってきたメルサを他所に視線をユタとフレムに向けるとユタが笑いを必死に堪えていた。
「ぷっ、、ふふ、嘘がお上手なんですねオリオール様は」
ユタがにこやかに微笑みながら話すとフレムがほっと胸を撫で下ろす
「では、あの不細工は嘘なんですね、ちょっと傷つきましたから」
「やけに上流層っぽい淑やかさね」
いらぬところで勘が鋭いメルサを適当に誤魔化す
「お前も見た目だけは上流層だぞ」
「貴方モテないでしょ?」
その場ですぐさま息を巻いたメルサの負けだ。これで話が逸れたと思い。。
「別にそういうの気にしたことないからなぁ」と呟いたがユタが上品に口に手を当てて驚く。
「よく気づきましたねメルサ様、私達、獅子王の娘なんです」
奴隷ってこんなに自由なの?ってくらいに見事なカミングアウトだった。出来ればそのことに関しては黙らせていたかったのに。
「え!?獅子王の娘!?」
ほらおばさんが反応しちゃった。
ユタの鎖を手綱のように引くとユタが「えっ?なんですか?」と純真無垢な瞳がこちらに向く。
「それをメルサには明かすなと思っていたんだがな、、なぜ明かした」
もう引くに引けない状態であるしそれを事前に言ってない為、完全な八つ当たりになってしまったが凄んでユタを手懐けてこれからは失言がないようにするのがいいだろうと判断。
それをフレムが正しく受け止める。
「妹が申し訳ありません、私達はこれからはオリオール様が許した時にだけ話します。
」
妹の頭を下げさせるとフレム自らも頭を下げた。良く出来た姉だ。自分の立場というものを弁えている。
妹はそれに欠けているところが随所に見られる。九龍の奴隷船はもしやと思ったがやはり奴隷の出自や名前にまで気を止めていないことがこれでわかる。
もしこの2人が獅子王の娘だと知ったら奴隷などにせずすぐに獅子王の元にこの娘を帰すはずだ。あの奴隷に容赦のない九龍の船で今まで生きてこられたのは機転の利く姉の力が大きいと見た。
「ユタ悪いこと言わないわ。目を覚ましなさい。この男女性の目を気にした事がない人間だから女性の扱いもぞんざいよ。」
「そりゃ王女とお前じゃ月とボウフラだ」
「貴方、今のところ全方位に対して口が悪いわよ」
メルサに指摘されるのはなんか癪に障る。
「全く、メルサお前はわかってない。ユタ、フレムこれからは俺が聞いた時にだけ答えろ、それが2人の最上の幸せになるだろう」
「ッ、、!?、はい、すみませんでした!!ありがとうございます」
最上の幸せというのに思い当たるものがあったフレムが目を丸くさせると礼を述べる。
「偉そうに、よく最上の幸せだなんて言えたものね、獅子王の娘よ?貴方が口を慎みなさい」
さて、フレムが言いたげな顔をしていたので
答えさせるかね
「言っていいぞ、フレム」
「オリオール様は本当に最上の幸せを与えてくれるはずです」
フレムがメルサの言い分を否定するも負けじとメルサが重ね重ね俺を否定する。
「この男への盲信ならやめた方がいいわ。最低保証しか出来ない男だから」
「おい、メルサ船壊すぞ」
その言葉でメルサの体が硬直したところで来た道を帰るのに足を向ける。木々が覆い茂った箇所を手で退けて道なき道を進む。
「貴方が奴隷にしたのあの獅子王の娘よ?いくら無法者の海賊でもちょっとは驚きはするでしょ」
メルサが共感を分かち合おうとすり寄ってくるが黙々と歩を進める。それに習ってフレムとユタも歩いていく。
海岸まではまだ遠い。この娘に関しては事の経緯など無くても何故、九龍の船にいたかはなんとなくわかる。十中八九獅子の子落としに違いない。獅子王の子は生まれて何年か経つと世界一周を命じられる。それが獅子の子落としという王家の儀式。
無事帰ってきたらその我が子とその同胞に金銀財宝が貰えるという伝説がある。今や言い伝えに過ぎないがその言い伝えにある獅子王の娘の容姿と名前が一致し更には自身がそう名乗ったことから言い伝えが確信に変わった。
九龍を夢想家と斬ったがまさかこんな形で目が眩むとは、腐っても海賊なんだなぁ、然しそんな上手い話があるのだろうかと考えを改める。
あの言い伝えから優に100年は過ぎていて、獅子王の娘は今では老婆になっているのが時の流れというものなのだが、その言い伝えには獅子王の血筋は不老不死だという。
これで娘の容姿に変化がないのは裏付けられているがあまりにも上手く行きすぎている。九龍の奴隷から逃れたくて獅子王の娘の名を名乗り自身を丁重にもてなさせる事を企んでの発言なのか、だとしたらナトリはそこまで馬鹿じゃない。
まぁ一番の馬鹿はその有名な伝説を浅く知ってるメルサなのだが
「聞いてる?獅子王の娘を貴方は奴隷にしたのよ?伝説で絶対強者と言われたあの獅子王よ?その娘を奴隷にしたとなったらかの国が黙ってないわよ」
それにメルサは浅く知ってる伝説を信じきっている。もう少し疑えよ。メルサの発言に呆れてつい口が開いた。
「どうだがな、ユタの言葉も嘘かもしれない」
「な!?そんなことないです!」
「おい、喋るなと、、」
「妹がすみません!」
フレムが早急に謝るとユタは不貞腐れたように口を結ぶ。それを見かねたメルサが反比例するように口を開く。
「別に謝らなくてもいいのよフレムさん、そういう船長はいつか反乱を受けて死ぬようになっているの」
「部下に対してな?その記憶力を違うとこで生かせよお前は」
「そうなったら困るのは貴方じゃない?」
「お前が器用貧乏で助かったわ」
「貴方、いつか泣きを見るわよ」
互いに見えない火花を散らすとメルサは「ふんっ」と言って素っ気なく顔を逸らした。メルサが猫なら顔を逸らした事によりメルサは負けていた。
やはりメルサには敗北が似合うと猫界のルールを勝手に拝借したが要はメルサが気に食わないのだ。奴の一挙手一投足が気に食わなく腹立たしい。思わず手抜き修理を画策したくなるくらいにだ。
それくらいに今の奴は邪魔である。暫し歩いていると密林を抜けて白い砂浜のある海岸に辿り着く。夕日が海に沈みかけて3隻の船と水面はその色合いに溶け込むように染まる。
寄せては返すさざ波は潮騒の音を一律に保ち
ながらも尚、潮の香りを鮮明に残す。
砂浜についたいくつもの足跡とひっそりと静まり返った船員達の様子から察するにどんちゃん騒ぎの後だったのだろう。
無防備にも砂浜で寝転ぶアルトラの船員をメルサが叩き起こす。
「私達が苦労して水を汲みにいっている中なにしてるの?あんたら」
スパァンとはたき起こされた船員は急な船長の怒気に身を強ばらせる。それにしてもいい音が鳴ったな。
「遅いお前らが悪いだろ、オリオール、メルサとそいつらは誰だ?」
ジャメル号の船内から姿を見せたヴァズがナトリとフレムを交互に見て俺に視線で問う。
「まぁ色々とあったんだ」と応えるとそんな回答で良かったのか「あぁ、そうか海賊には色々あるしな」と言うだけに収まった。
「それが聞きなさいよ!この2人し、、」
スパーンとメルサが何かを言いかけた時に頭を叩いた。それにしてもいい音が鳴ったな。
「なんか言ったか?メルサ」
船内から海岸までヴァズの大声が響く中、メルサが涙ぐみながら俺に訴えかける。
「私がなにをしたって言うのよ!」
メルサの言うことは紛れもない正論だ。然し何としてでも獅子王の娘であることは黙っていて欲しいがこれ以上メルサに取り引きで何かを確約させたくない。うーむ、難しい局面である。
「船員の痛みを知るいい機会だったろ」ハニカミながら軽やかに伝えたがそこにいるのはとんでも理論で頭を叩くただのDV男だったそんな俺のハニカミ具合に恐怖したメルサが身を案じる。
「こいつといるのはヤバイわ、2人共、気を付けなさい」
ユタもフレムも真っ青な顔色でこくこくと静かに頷いた。知にいけば角が立つとはこのことか、以前読んだことのある書物の冒頭をなぞらえるように思い起こすと思い切り息を吸い込んでサレンダー号の船員を呼ぶ。
「待たせてすまない、出発準備だ!!帆を上げろ!!」寝静まっていた海岸にいる船員達が慌てて準備をする。
「おい、オリオール、結局あれは一体なんだったんだ?」
事情の分かってないヴァズが聞き返す。サレンダー号の船外から垂らされた梯子ロープに足を掛けて登り片手間ながらに応える。
「ただの喧嘩だヴァズ、気にすることはない海賊なら小競り合いくらいあるだろ?」
「確かにそうだな」
それで納得したのかヴァズが首肯する
「よし、野郎共、錨を上げろ!!オリオールに続け!!船の破損の修復はオリオールの領海の国に行けば必要な資材の補充とある程度の修復をすると確約している。船の応急手当は出発後も小まめに行え!!」
「イエッサーキャプテンヴァズ!!」
活気のよい海賊の声が並ぶとそれに続くように右隣から声が上がる。
「皆、船に乗った!?乗り遅れはいないわね?出発するわよ!!」
いまいち締まりのないメルサの号令がかかると俺を先頭に連なって北の海へと目指す。今から目指す場所はセオレナルという俺が拠点としている領海にある一国だ。海賊が国の元締めになるのも中々に難しく。
そこら辺の海賊ならば行き当たりばったりで略奪して終わりだが、セオレナルは船を作る資材と才が溢れており、俺の白旗海賊とは言ってはなんだが互いに馬があった。
連れてきた海賊船の修理代がこの国に落ちていくことで潤う国民と生活。それで白旗海賊の資材は無料で蓄えられるといった取り引きになっているこの国と海賊のやり取りは政府には知られないよう暗々裏でやっているので今のところ問題は起きていない。
海賊が欠かせない国セオレナル。そんな馬があった国を元締めとしているのが俺だ。さて、この2船をお国のためにしゃぶりつくしてやろうと企み、自然と口角が上がる。
「船長!この娘はなんなんですか?」
副船長であるアレンがユタとフレムを指差して問う。
「表向きでは奴隷だが、、この娘は獅子王の娘だ。扱いには気を付けろよ」
その一言で船内から驚愕の声がわっと沸き立つと一斉に静まる。
「あの獅子王の娘だと?なんかの間違えじゃないか?」
沈黙を破るように船内の砲撃手であるジープスが同じ戦闘員のソンヤに耳打ちをする。
「獅子王は激情の王家と言われて気が荒いと聞くがなぜ奴隷に?」
「知らんオリオールが拾ってくる人は皆そんな奴ばかりだ。ある意味見る目がない。変な奴ばかり集めたがる」
ソンヤに冷めた目付きで見られてそっぽを向く。そこに割って入ったのがアランだ。
「聞こえてるぞ、ソンヤ。捨て子のお前を拾って使い物になるように育てた船長を悪く言うな。」
「オリオールには男装させられてるんだ文句の一つも出るだろ?アラン」
「全員周知の上だし、それも船長の計らいだろう」
アランが難しい顔をして首肯するが、
ソンヤはそれをすぐさま否定する。
「なんの計らいだよ。。完全にオリオールの趣味だろ?」
ソンヤが苦々しく顔を歪めてる
のを見てそろそろ沸点だと悟る。ソンヤの男装への文句は日に日に増しているが誤魔化し誤魔化しで今まできている。
「趣味で人を船に乗せるバカじゃねぇわ
いいからそれは着とけ。それよりあの二船しゃぶりつくすぞ」三隻は夕暮れの海の中を行く