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RADIOPARSONALITY  作者: 九JACK
3/7

 あなたはブラック企業勤めの所謂社畜です。

 元々は出世街道間違いなし、周りからも羨まれるほどの立派な企業に勤めていたのですが、その会社は突如倒産してしまい、あなたは路頭に迷ってしまいました。

 それでも、働かざる者食うべからずは世の理です。なんとか働き口を見つけたあなたはかの企業の出ということもあり、トントン拍子に採用されました。

 会社が倒産したのは残念だったけれど、人生なんとかなるものだ、とあなたは思いました。新しい職場の労働環境を知るまでは。

 サービス残業は当たり前。けれど残業手当は雀の涙。パワハラなんて日常茶飯事で、飲み会に誘われたら行かなければならない、もはや義務のような風潮があるのです。仕事がまだ残っていれば、のろまだの役立たずだのと好き放題罵られます。仕事を済ませて飲みに行けば、アルハラのテンプレート「俺の酒が飲めないのか」「一気、一気」が待っています。

 更に二日酔いをすると、自己管理もできない愚か者と謗られ、何故かいつもの倍量の仕事を任されます。おかげで残業は倍。

 同僚はほとんど皆死んだ魚の目をしています。あなたも例に漏れません。けれどすぐ仕事を辞めてしまっては、経歴として信頼を得られなくなります。つまり再就職に不利になるのです。自分の運がなかったと諦めるしかありませんでした。

 あなたには幸か不幸か養わなければならない両親も所帯もありませんでした。自分の懐さえ暖まればいいのです。

 そう言い聞かせて歩いていたあなたは、歩き疲れて、少し寂れたバス停のベンチに座りました。すると、隣から古い電子機器特有のじじ、という耳障りなノイズが聞こえてきました。

 そちらを見て、こんなものあったっけ? とあなたは訝しみます。そこにあったのはいつの時代のものだろうと思うくらい見るからに古い型のラジオでした。

 こんなものがなんでこんなところに、と手を伸ばしかけたとき、ざあっと砂嵐のようなノイズが駆けて急に音がクリアになりました。

「今宵も始まるミラクルナイト! 曇った夜空にシューティングスター! どうもー、ラジオパーソナリティでーっす!」

 妙に発音よく横文字を言うラジオパーソナリティはテンション高めでノリノリでした。通行人がいれば、ドン引きされていたことでしょう。

 ただ、あなたはその声に驚きました。ラジオパーソナリティを名乗るその声は非常に聞き覚えがあったのです。

「社長!?」

 あなたは思わずラジオをひっつかんで叫んでいました。ラジオからおっとっと、と声が漏れます。間違いありません。

 ラジオパーソナリティの声といい、この妙なまでのテンションの高さといい、この人物はあなたが勤めていた会社の社長のものでした。会社の倒産は借金でもなんでもなく、単純に会社を支える社長が突如姿を眩まし、後任もないために社の存続が不可能と判断されたからです。

 それが何故ラジオパーソナリティなんてしているのでしょう。というか、どこをほっつき歩いているのでしょう。あなたには言いたいことが山のようにありました。

 ラジオパーソナリティは気まずそうにします。

「あー、きみ、社員くんだったか。元気してる?」

 社長は時々突拍子もない行動に出ることがあります。楽観的というか、能天気なその様子は相変わらずのようです。

 そんな声を聞いて、あなたの中から今までこらえていたものが堰を切ったように溢れ出します。

「あなたが突然いなくなるから、社員はみんな路頭をさまようことになったんですよ!? どこに行ってたんですか!? それでも日銭を稼ぐために私はすぐに就活して、すんなり決まった再就職先がサービス残業祭りのブラック企業だなんて、あんまりだ……社長、戻ってきてくださいよ。また社長の下で働きますから」

 あなたから出たのは切実な願いでした。

 あの会社で働くのが、あなたは楽しかったのです。今の会社は楽しくなんかありません。

 そしてとうとう心の底の底にあった本音が零れます。

「それが叶わないなら……死んだ方がましだ……」

 あなたのその発言に今まで沈黙を保っていたラジオパーソナリティが口を開きます。

「死んだ方がましだなんて、そんなの死んでみないとわからなくない?」

「へ?」

 次の瞬間にはあなたの意識は体ごと吹き飛びました。

「ゲストの方ありがとうございましたー! それではまた次回! お楽しみに!」

 それだけ朦朧とした意識の中で聞こえた気がしました。

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