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その8

 もともとサルジュは王族というよりは、研究者としての思考が強い。

 しっかりとした兄が三人もいて、さらにサルジュの研究は国のためにも必要だったから、ますますその傾向が強まったのだろう。

 だから今も、謎の少女のことや、海の向こうのアーネ王国のことよりも、レニア領を襲った災難を解決することに全力を注いでいる様子だ。

「サルジュ様」

 ずっと無言で傍にいたカイドが、声を掛けた。

「アレクシス殿下が戻れと仰っているのなら、やはり一度戻るべきでは……」

 本来ならばそうするべきだろう。

 けれどサルジュは首を横に振った。

「向こうに帰っても、私にできることは何もないよ。あの少女のことは、アレク兄上とエスト兄上に任せておけば問題ない」

「そう。そしてサルジュのことは、俺とアメリアが担当だ」

 ユリウスの言葉に、カイドも諦めたように肩を竦める。

「そう言うと思っていましたが、一応」

 護衛騎士という立場上、受け入れられないとわかっていても、そう進言しなければならないのだろう。

「兄上には、俺が連絡するよ」

 ユリウスはそう言って、王城に戻ったアレクシスとエストと魔法で通話する。

 アメリアははらはらとしながら見守っていたが、向こうでもサルジュとユリウスが残るだろうということは、予想していた様子である。

 どんな会話をしているのか、アメリアにはわからない。でも心配したアレクシスとエストに色々と注意されている様子で、いつもしっかりとしているユリウスが弟の顔をしているのが、何だか微笑ましかった。

 そして、何とかレニア領に留まる許可を得たらしい。

 様子を見守っていたアメリアも、それを知って安堵する。

(……よかった)

 仲の良い四兄弟の意見が分かれてしまい、どうなるのか心配したが、互いに譲歩して、ユリウスとサルジュは現地に残り、その代わりに魔法陣の撤去は保留するという結果になったようだ。

「さすがに兄上が現状維持しろという魔法陣を、勝手に撤去することはできない。だから俺はここで魔法陣を見張る。サルジュは……」

「ここが使えないのならば、別の土地を探さなくてはならないな」

 サルジュはそう言って、アメリアを見た。

 その視線を受けて、頷く。

「少し離れていますが、今は休耕地になっている土地があります」

 レニア領は田舎だが、領地だけは広い。ただ山に近い場所なので、ここよりも雪が降るのが早いかもしれない。

 アメリアがそう答えると、サルジュは頷いた。

「そうか。時間はあまり残されていない。すぐに取りかかろう」

 ここで一度屋敷に戻り、ユリウスは父とともに魔法陣の見張り。そしてアメリアはサルジュ、そして護衛騎士のカイドと、馬車で休耕地に向かうことにした。

 父はあらかじめサルジュから話を聞いていたようで、既に来年のために仕入れていたグリーの種を準備し、作業する人を集めてくれていた。

 たしかに魔法である程度まで成長させた穀物を植え付けるには、人手が必要となる。

 収穫寸前の穀物をすべて失ってしまい、これからどうしたらいいのか途方に暮れていた領民たちは、父の呼びかけにすぐに集まってくれたようだ。

 グリーはサルジュが品種改良した穀物で、冷害に強い。北方に位置するレニア領では、新品種のグリーに変えてから、収穫量が倍近くまで上がった。

 そしてカイドの妹であり、アメリアの従弟の婚約者でもあるミィーナも駆けつけてきて、手伝ってくれるそうだ。

 彼女は土魔法の遣い手で、いずれアメリアの従弟と、このレニア領を引き継ぐことになっている。ユリウスが彼女を迎えに行ってくれるようだ。

 馬車の中で念入りに打ち合わせをして、休耕地に到着してから、すぐに行動を開始する。

 定期的に手入れはしていたが、やはり森に近い休耕地なので、少し荒れている様子である。

 人の手で耕すと膨大な時間が掛かってしまうので、サルジュが土魔法で荒れた土地を回復させてくれた。

 休耕地はかなり広い土地だが、さすがにレニア領地で一年間に作れる穀物の量をすべて再現するには、土地が足りない。

 だから何度も繰り返し、植え付けと収穫を繰り返すことになるだろう。

 それにかなり時間が掛かるだろうから、雪が降るまでどれくらい収穫できるかが問題だ。

 王族だけあって、サルジュの魔力は桁違いに多いが、それでも過去には魔法の使い過ぎで倒れてしまったことがある。同じようなことにならないように、アメリアが気を付けなければならない。

 いつもならば、土を耕したあとに、水魔法を付与していた。

 グリーは冷害には強いが虫害には弱いので、普段ならそれを予防する水魔法が必須なのだ。そして、植え付ける前土地に直接に付与すると、効果が高いことがわかった。

 けれど季節は、もう冬になろうとしている。

 種から急速に成長させることもあり、今回は必要ないと判断していた。

 水魔法の出番がないので、アメリアは動きやすい服装に着替えている。植え付けや収穫の方を手伝うつもりだ。

 護衛騎士であるカイドも、そちらを手伝ってくれるようだ。

 そうしてユリウスが王都まで迎えに行ってくれたらしく、彼の妹のミィーナが駆けつけてくれた。

 彼女はさっそくグリーの種に土魔法を使い、植え付けができる状態にまで成長させてくれる。

 それをサルジュが土魔法を付与してくれた土地に、領民たちと一緒に植えていく。

 さすがに重労働だが、昔はこうしてよく、領民たちに混じって畑仕事をしていた。その頃を懐かしく思い出す。

 グリーの植え付けが終わると、それをサルジュとミィーナが土魔法で成長させていく。

 一度で収穫ができるまで成長させるサルジュと違い、ミィーナは何度か魔法を重ねないと成長させられない様子だが、それでも一生懸命頑張ってくれている。

 いずれ従弟とレニア領を継ぐ予定のミィーナは、学園の長期休暇には必ずここを訪れているようで、領民たちともすっかり仲良くなっていた。

 それを微笑ましく思うことはあっても、寂しさは感じない。

 これからも、サルジュと一緒に生きる。それがアメリアの人生だ。

本日コミカライズ更新日です!


https://drecom-media.jp/drecomics/series/konkake

第6話② 

さようならエミーラ…。

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