言葉を介して
その日、世界は言葉を失った。
発声しようにも、口から…喉から音がでないのだ。
言葉を失くした世界は、過去の録音物が世界中で高騰した。
楽器などからは、変わらず音が出る。
ジェスチャーなどの身振り手振りで、伝えることは非常に難しい。
だが、スマートフォンを介して、ヴォーカルロボットという、テキストに文字を入力すると、文字を音声に変換する、画期的なアプリのサービスが開始された。
ヴォーカルロボットは有料のアプリだが、使うほかなかった。
しかし、この世界には一人だけ、言葉を発声できる少女がいた。
言葉のない世界で、少女はミューズと呼ばれ、崇拝対象となった。
彼女は僕の幼馴染みだった。それが今は世界の頂点、いや違う、正しくは世界の音源のようなものだ。
この時代には、言葉難民という単語が生まれた。
人々は言葉を求めている。
それともう一つ、この世界にはサウンド崩壊という現象が起きることがある。
その現象が起きた半径五百メートル内の場所では、言葉どころか音が一切鳴らない。
僕の目的は、この世界の言葉を取り戻し、幼馴染みを世界から解放させることである。