8-壺の話
「足が伸ばせてゆっくりできると、気持ちいい。」
セリは風呂が嫌いな訳ではないが、教会では小さな子供と入浴だった。
騒がしいし、のんびり浸かる間さえない。
「前のお風呂は、足湯みたいに小さかったって。」
「桶みたいにか?」
小さな子供であれば、桶に貯めたお湯で湯浴みができてしまう。それは、獣人の国でも、見られた景色だろうが。
「寒いから、すぐ水になっちゃうね。」
セリの住んでいたところでは無理だった。
「壺みたいなのでね、火の魔石を砕いて焼いてあるからあったかいんだって。」
壺に人が入っていれば、奇妙だが。
「壺風呂か。」
そういう名前に風呂があるらしい。
「あ〜、いっぱい並べてある風呂ってのがあるらしいよお。」
焼き物の街で、観光の場となっているらしい。
「ここでは難しいかな。」
「獣人の性質を考えると狭いのは好まないかなあ。」
「サウナのがドワーフは喜ぶだろう。酒を呑みながら温まれる。」
グスタフが言うならそうなのだろう。
「酒とサウナ、ね〜。獣人も気にいるものがいるかもしれないな〜」
「その時は増設すれば良い。」
「キースは、壺のお風呂なら入るかな?」
「ブッ」
想像して、カナンが吹いた。セリは大真面目だったが、壺よりティーカップのが似合うかもしれないと真剣に考える。
それを伝えれば、カナンがしばらく動けなくなるだろう。笑いすぎで。
セリを湯着から着替えさせたロードは、すでに服を着ていた。
ほかほかなセリを抱っこして、部屋に帰る。
キースが紅茶を飲んでいた。
アッツアツの風呂も好きそうだと考えているセリが、そのことを口にしたらカナンの腹筋が試される筈だが、そうはならなかった。
湯船でのんびり、書類仕事以外は入っていて機嫌も良く艶々している。
野営で樽風呂があるとカナンの知っている風呂の話を聞いて、さっぱりした果実水で喉を潤すセリだった。




