第十三話 会話
「いつから、暗いところでも見えるの?」
「そうだな、洞窟型のダンジョンで何十日間か過ごした時か。薄暗い場所だった。」
「そっか。数日なら近くの洞窟で過ごしたことあったけど。明るかったなあ。」
セリの教会の近くに、水を汲みに行った洞窟の事だろう。ぼんやりと明るい中は狭く、迷うこともない広さだったが。ロードが気になったのは別な事だ。
「洞窟で、何か用があったか?」
「ん?野営の訓練だよ」
冒険者になるつもりだったセリが、狩りで外に出る前に練習のため洞窟で過ごした日々があった。
教会で食事が出るという楽なものだったが、やはり寒かった記憶が残っている。ロクな装備がないせいでもあったが。お金を使うのには食糧が優先、孤児院はだいたい金欠だ。
「ここは、なんだかあったかいね?」
ぽっかり空いた部屋に、温める装置はなさそうだが寒い!とも思わない。
「寒い風や雪を通さない天然の土壁の影響だ。」
グスタフの解説が入った。説明になるとかなりの長文を話してくれる。
シュルトやカナンとは違ったリズムだった。専門家はえて独特なものだろうか。
お喋りは上手くいっている。
グスタフもロード、2人とも会話を続ける印象はなかった。一緒に居てどうなるかとちょっと心配していたセリ。
“専門家はよく話す。専門の話に限る”
そういうものだし、ロードがセリに冷たい態度を取ることはまずない。
子供に気を遣わせることはないだろうと見込んでいた。
暗い小部屋から、狼の耳で声が聞き取れる。カナンは予想通りだなと確認して、護衛のために周辺の様子を見に行った。
お喋りを楽しんだセリは、ロードに飲み物を用意してもらいながら
何が起こるんだろうかと、ワクワクしていた。
これから、飲み物をのんでなるべく起きているつもりだ。暗いので眠くならないか心配した結果。
「コーヒーか。」
グスタフにも渡されたらしい香りは独特だ。炒った豆の煮汁で苦い。今は見えないが黒色らしい。
「ミルクをたっぷり入れてある。」
実はセリが渡されたコーヒーは、ほとんどミルクだ。礼を言って口にする。
「美味しい」
苦味があってもミルクの味が温かく旨い。
「砂糖追加で入れるか?」
ロードは何もなしで飲んでいるらしい
「なしで飲む」
ちょっと大人ぶりたかった。
お菓子も出してもらった、クッキーだがいつものように甘い。
「苦いお菓子ってどれくらい?」
「ほろ苦いくらいにはなっているな。」
グスタフもロードも食べている。お菓子はキースがいっぱい食べている印象が強かった。フルーツパイなどのお菓子も好きらしい。グスタフについて、新しく知れた事だ。
「コーヒーの苦さが好ましい。」
そんなコーヒータイムを過ごしていて。
闇色の綿毛が、部屋の隅で舞い上がったのは見えなかった。




