第三十四話 夜更け
酒を呑みながらに護衛とは、けしからんと思われるだろう。
だが、この状態で酒なしではいられない。
「僕の勧める酒が、飲めないの?」
トップ、護衛対象からの言葉。
護衛は不要では?と思うほどの魔導具の配置に、厳重の警戒は必要なさそうだ。それでも護衛であるという形は崩したくないが。
「死角なしよネ?というか来ても、捕まえるワ。」
シュルトというなの人族だが、商人スキルとは思えない防衛だ。見習わなければ。
肉になるばかりだろう。それがなくても食事は豪華な食材だった。祝いの日に見るくらいで、口には早々に入らない程の高価。この土地では希少だ。
(ああ。食事がウマイ。)
肉を焼いている。もちろん護衛の仕事ではないが役目だ。
今宵の夕食でもある。
そのおこぼれとも言うべき食事を用意されている、セリ向けに果物が用意されるなどのんびりした雰囲気だ。最近の騒動を忘れられるくらいには。
「気分転換が目的の野外訓練…。」
野外とは、魔物の襲来と寒さに耐えるものではなかったか?まず、装備からいって違う。
「お風呂に豪華な食事デス?」
「訓練してないよね。」
生真面目なアレクセイの言葉を、ビクトールとベンゼン。
こっそり見る視界には、戯れる3人。
外であるだけで、大変な環境なのだが。想像と実際の乖離にただ飲み込めない気持ちがあった。
食事はしっかり腹におさめるが。護衛の分まで考えられているため、遠慮も要らない様子だ。酒を振る舞われ邪魔をしないようにしているが。
セリは、驚くほど寛ぐ顔をしている。極北の城で緊張を強いていたのがよく理解できた。
しかし。
『絶対的強者である竜人と狼獣人が一人の少女を構っている』の図。
恐れを抱かず、戯れる様子に衝撃を禁じ得ない。
獣性は、多かれ少なかれ本性が出る。
高揚すれば尚更で、その衝動を理性で抑えが効かなくなる。獣人で戦う者が多いのは性質でもある。
性とは言うが、その程度は多かれ少なかれ生涯付き合う衝動だ。
それとは縁のない人族は、獣人と良い関係を築くものがいる。
ひとつは導く。力の使い方や相棒と呼べる間柄。他種族ともあり得る
もう一つは…“猛獣遣い”とも呼ぶべき強者を甘やかせる。
本能や見た目で距離をおかれる。鈍いのか気づかなのか?
懐く性格とやらがあるらしい
それを目の前にするとは。
しかも、最強と名高い種族2人。
最狂とも言われる扱い難い者達に、甘える?
「酔わなければ」
酔ってしまわなければ、この微妙な気持ちをうまく飲み込めなかった。




