40 -深淵
一本の木だった。
白い地肌の思ったよりは細い。
「あー、これは見つけにくいか。」
「崖の崩落で見えるようになったか。」
壁は脆いのだろう。登るのも、降りるのも難しい地肌だ。
「じゃ、始めて?」
キースの言葉に、シュルトが魔導具の設置にかかり、狼がてってけと見回りに駆けて行った。
(帰ったらモフろう。)
グスタフが取り出した樽を置き、自らは魔木に触れる距離へ移動した。
セリは魔木全体に向き合う。コレに薬品を全体に満遍なくかける役目。
樽には並々と薬品が入っていた。
薬品を掛ける作業が終わるまでに、魔導具の設置と簡単な調査おしておく手筈だ。
キースは帰還用のに転移の魔法陣を広げ、魔力を巡らせ備えている。
魔馬はお利口に待機している。
魔木は想定より小さい。
形は根が出ているようだが、薬品をかけるのに邪魔な葉はない。
魔木の頂点から。そして、全方向から薬品をかけ根まで到達すると良いが。その土の状態をグスタフが視ている。
土魔法で、さらに根を露出させるとも言っていた。
薬品がかかっても良いように、雨除けになるフードをかぶっている。
既に臭くなっていそうだけど。
「慣れだ。」
とのひと言で片付いていた。
狼になってからのカナンは、一度も近づいていない。風上をキープしているのに気づいたのは3人だ。
(麻痺しているのか。我慢強いのか今度聞いてみよう。)
シュルトが視界の縁で作業しているのを見ながら、セリは魔力を行使し始める。
気負っていない。流石に空気がおかしいのはわかっているが。
ロードが側にいた。護衛じゃなくても居てくれる。
その安全安心感に、仕事に集中できた。予定の薬品を計画通りにかけていく。
風呂のお湯ほどの水球をふよりっと浮かせた。雨のようには降らせない。まとわりつくように、覆うような膜を張るイメージで。
順調に、光沢をました部分魔木に広がる。
薬品はまだまだあった。
魔物の接近を察知した。
威嚇に吼えるも、少々怯んだ魔物もいたが群れでの勢いに流されていく。
崖を落ちるつもりはないらしいが、真っ直ぐ魔木にひた走る。
その警戒に、ひと鳴きして伝えればロードがそれを聴き取った。
魔物を防ぐ魔導具の展開。
魔力の温存も大事だが、結界の魔導具を荒らされてはならない。
魔力を使わない、爆発物を投げての牽制に止める。群れを減らしていった。
「交代しよう。」
土の壁、そして穴。
器用に避けて、狼が戻ってきた。
尻尾をふわりと振りセリの近くの立つ。
もう薬液は残っていない。
「セリ、良くやったワ」シュルトと一緒にキースの下へと集まった。
鳥の魔物が狙いを定めてくるので、火魔法を準備する。足止めくらいにはなるはずだ。そこに、シュルトが爆発符を投げ、魔物は止まる。
狼姿のカナンが魔物の群れを牽制、それでも抜かしてくる魔物はいた。
脅威ではないが煩わしい。
魔力は巡らせ
目立つ。
狙いにされているが動くわけにはいかない。
馬が落ち着かない雰囲気だが、勝手に動くことがないのは流石魔馬か。
シュルトが安心させるように、動いているのも功を奏しているだろう。
セリの立って居た地点。そこで、ロードの特大の氷魔法によって足元を冷気が走った。
氷の木のようになった魔木が佇んでいる。目視で確認して居たグスタフが陣の中へ。
ロードが、もう一回魔法を打ったが、氷の壁で魔物を防いだ。
「一応の封印はできた」
そう告げられ、転移魔法の陣が動き出す。
まだ魔物の威嚇する音が聞こえてきている。
この場で、囲まれるような地形は戦闘には向かない。
唸る魔物は、崖の上から睨んでいるが、いつか降りてくるのだろうか?
その魔物に囲まれる中、行使されが転移魔法の光に包まれながら。
これで終わりにできるとは思えなかった。




