39-闇の森
「移動は、歩き?」
「馬。」
ロードが簡潔に答える。
地図を広げ、キースを中心にぐるっと立つメンバーの中に、セリも居た。
グスタフとシュルトによって、物資と魔導具の準備が整う。揃ったメンバーを見てシュルトが決心して言った。
「セリが行くならワタシも行く!」
「良いけど?」
キースが他のメンバーを見やる。少数で行くと決めたが、1人増えるくらいなら問題ない範囲だ。
「馬が入っても問題ないし?」
転移魔法の範囲、魔導具の扱いに慣れている者が居ても問題はない。体力的な考慮と任務内容でと商人に強制するつもりがなかっただけだ。
商人として利益の方ではなく、子供を連れて自分が行かないのは納得できないのだろう。そういうとこは好ましい気質だ。
そして、気持ちだけで無理せず、慎重なのも連れて行って問題ない。魔導具の取り扱いができるという点も能力は使える。
「このメンバーに慣れているのも良いね?」
冒険者の活動もしていて、人族にしては体力も気概も負けはしない。
「今回、セリにも活躍してもらう予定なんだ。無理させないために居てくれる?」
「何をさせる気なの?」
“ロードについていくだけ”のセリを心配していたが、一気に警戒が増した。連れて行く方が安全であると判断された思惑は予想できても、その言いようは役目があるかのようだ。
「作戦があるんだ。とっておきがね?」
護衛の位置に居たカナンも前に出た。
「メンバーはこの部屋にいる6人。紹介は必要ないね?」
セリが中心となっていた。
本人はそう思っていないようだが。
「任務は、魔木の凍結を目的とする。ロードの魔法で一気にと考えていたけど、魔力まで封じ込められるか分からない。
そこで、グスタフが調合したコレが役立つ。」
「クッサ」
カナンが思わず呟いた。少量でも結構な臭いだ。
(後で、エアウォッシュかけたげよう。)
「これを、魔木全体にかけてから凍らせる。」
「埋めるのも案にあったけど、魔木の影響が抑えられる訳じゃないって?」
「地中にあった魔木が影響をもたらしたとする報告が、過去にあった。」
燃やすにしても、残骸まで影響しその煙で魔物が狂化する。
ここの環境から、凍らせるのが良いとの判断に薬品を混ぜる事でより封印を強固にできると踏んだ。
植物の魔物に使われる薬品だが、植物の特性を持つ魔木にも有効だ。過去、魔木を処分するのに氷魔法をかけ、封印結界を施した後最大級の火魔法で灰にしたと記録された。
『灰にまで魔力があり、それを使った土で植物を育てると希少な魔法植物
を育てることができた。』
高く売れそうだが、市場に出されない希少素材だ。その事から詳しい情報をたどったことのある2人が揃っていた。
「ただ凍らせるより効果は期待できる。」
グスタフのお墨付きに、キースがまとめた。
「魔木の魔力を遮断、成長を阻害して封印をかける。」
その方向性で話が詰めて行った。
「ウォフ!」
昏い森の中、狼が合図を送った。曇天のようだ。そして重苦しい気もする空気の森を馬が駆ける。
魔物の群れとは会わないよう、狼姿のカナンが誘導していた。
後は、馬に乗りセリだけロードと相乗りだった。
軍馬として使っている魔馬は、巨体だ。特にセリにとって。
そうでなくても、1人で乗れなしなかったと思うが。
「近いな。」
ロードの言葉に、セリは緊張した。自分の意思で来た。役に立つなら
とここまで来た。
守られている身でも。ここで手を打たなければ全域に危険。
極北の城、孤児院も危険が及ぶ。
生活が脅かされるのは目に見えている。
正義感より、
必要であるとされた事、力を持っているからこそ…
ここまで来た。
魔木が谷の境に、異様な姿で聳え立っていた。




