9-帰る者、留まる者
酒盛りの後。ソラスは夜の見張りをしていたが、そろそろ交代か。
起きる者の気配も感知していた。
あの書類山を全部目を通した者達の方を見て
(ご苦労なこって)
と思うくらいには、尊敬しているが性分の方かとも思う。職務の忠実というより探究心の方に重きがいっている。(まあ役割の違いか。)
その役割というなら自分はクエンという人族の男に探りを入れた。カナンと飲みながらの軽いものだ。酒は経費で落ちる。
探った結果、危険性はなさそうだが、見張りはいるな。
持ち帰ってもらっちゃ困る情報は、多少ある。
他の3人は、大丈夫そうだが詳しくは、帰ってからの調査だろう。
情報部としては特筆するものもなく、見張りの時間まで暇で考え事をしていた。
(竜人の番と話せなかった。)ロードの警戒は予想通りだったが、カナンまで加われば手が出せないですわー。
『そんなに尻尾を振るのが楽しいのか?』そう遠回しに問うも軽く躱された。カナンの様変わりが、分かっただけだな。
しかし、それほどあの子供にのめり込むものがあるのだろうか?
(もう少し接点を増やしたいところだが、ガードが固い。)
あの商人を抱え込むのが良いか?それも貴人の影があり難しい。
どう近づけるか、まだ答えは見えない。
「そろそろ交代だ。」
ザイルだ。シャキっと起きてきた姿はオッサンと呼ばれているが、そう見えるだけで見かけよりは若い。大勢の子持ちだが。
「ほーい。異常なしいっ」
「そうか。夜中、何か威嚇していたか?」
「魔物には帰ってもらった。」
狩り取れる程度の魔物だったが、音が煩いため止めた。その意図は伝わり、すんなり見張りの交代だ。テントを見ると新人ながら、よくやっている新人は夢の中か。もう少し後で起こしてやろうという先輩心が湧いた。
(朝食の準備をして、ささっと寝よう。)商人とコックの男が手伝ってくれそうだ。いや、押し付けてしまおうか。その方がうまいものが速くえると思う。
(良い匂い。)
野営も慣れた先輩がいれば、それほど緊張を強いられない。覚醒したライリーはセリが帰ってきた時に“お帰り”と言ったが、“ただいま”と返してもらえなかったのを思い出していた。
夢でもそうだった。
昨日は竜人に睨まれてしまったし。
「それで済んでよかったな」と先輩達に言われた。
待機組みになった事で、先輩達から“番い”の事を聞いた。その執着の果てや、事件まで。
彼女には手が届かない。それが残念だが、この機会を得れて良かったとも思う。
訓練の内容、その理解まで話してくれた。教官のザイルさんと癖のあると言われる情報部のソラス、さん。つい警戒が先に出てしまう人だ。
掴みどころがない人との交流、テントでの待機は訓練より身になった気がする。この経験が騎士になる今後に役立つだろう。騎士になるその目標に集中すれば、“ただいま”を言われたいとは思わなくなるだろうと思う。
「極北の城に戻らないとね?」
キースの言葉に帰還する言葉だけは頭に入った。
セリは寝ぼけながらも、起きていた。たぶん。
朝食の良い香りは、シュルトの調味料とコックさんの腕によりをかけた
出汁のきいた雑炊。
はふっとアツアツな筈のそれは、美味しく火傷しなかった。原因はロードだ。もちろん口に運んでいる時に少しの氷魔法でセリの安全を確保した。
寝ぼけているセリはおいしいなあとモグモグ食べていた。気づいている様子はない。
そんな光景を目に入りつつ、今後の予定。
グスタフは残る。
ザイルとライリーの2人付け、後は帰還。
「兵士の人員編成を組み直したらこの拠点に戻り、北の砦にも人を送る。」
議長に報告し、新たな場所へ進む事になるのだった。




