20-成長
「だからー、セリちゃん男にすんなり触っちゃダメだよ?」
「なんの話?」
何やらカナンがセリとしている変な話に、昨日何かあったのか新しい護衛が3人来たのは聞いている。顔見知りだから問題はなさそうと情報が頭を過ったシュルトが、割って入った。
「セリちゃんのボディ〜タッチの件について。」
「手が出た」
カナンの言い分はわかったが、セリ。それは意味が。暴力的な事を、か?
「頭、撫でた。」
言い直され、状況は分かったものの…大の男にするにはシュールか?
ロードによくしているのだが、慣れって怖い。
突っ込みは頑張ろう。
同じ結論にいった大人2人。今日はシュルトもいるため、カナンも心強い。
そんな大人の事など知らず、また褒めることがあれば撫でる予定だ。外でやらなきゃ良いかなくらいにしか考えていないセリ。
少しは大人のプライドも考えている。子供でもその辺は大事なのだ。
「グスタフも来るかも」とシュルトの言付けがあり、セリに予定は未定。来客を待つ事にした。
「昨日は何してたの?」
「北の砦での話をして、あとは本を読んた!」
シュルトが心配したその声に陰りはない。セリのいた砦での暮らしぶりを話してくれるが。決して子供には優しくない環境だと思っている。
“極寒の地で、子供が、独り”でさえ、事件めいているのに。
セリに気負った様子はないが、注意深く聞いていこうと思う。
後からの自覚に、ショックを受けることもあるからだ。
基準が違う、普通の日常が過酷だったと。
セリはまあ、『そういうものか』と流してしまう可能性も考えたが。
どうも無頓着な気がする。性質なのか環境か計りかねる。
シュルトでも難しかった。
ロードとの仲。進展という言葉はないが
振り向いたり、名前を呼び寄り添う2人に平和を感じる。
子供に模擬戦への参加はやり過ぎではないか?との意見が後から来た。
兵士見習いであれば、未成年な子供もいるが。
模擬戦で見習いを出す事はない。
その混乱に早期の決着をつけるための模擬戦だったが。終わった後の熱気と、子供に出させた罪悪感を感じる者も出てきたようだ。
(まあ、これが平常カシラね?)
今までが少し、過剰な反応だったように思う。やっとこの『極北の城』で普段通りの過ごし方ができると思いきや…
まだ何かしでかす、始めるつもりのようだ。
「3人と話せたちぇ、オレのが良いよねー。」
狼獣人の変わりようもその一つか。
戯れの言葉も、構ってほしいに聞こえるのは気のせいか。
ほどほどに、ロードが怒らないラインを引いているようだが。セリを膝に迎えたロードが、カナンに確認している。
「あいつら、ビビってて使えるのか?」
「“セレナーデの騎士”は、実力も経験の方もあんだよ」
貴人やその家族の護衛は、特別な騎士が担当する。
セレナーデはそのひとつだ。
セリの扱いが変わったという事だろう。良い影響だ。
「竜人じゃな?」
「狼でもだろ」
意外と、仲が良さそうに話す。そのロードの下のセリが視線を投げた。
「シュルトは、カナンとロードがコワイ?」
質問が直球すぎてわからなかったシュルトに説明したが、セリと同じく自覚はないようだ。
『獣人特有の感覚』
「獣人ってだけあって威圧感とかカシラ?」
「魔力は?」
人間の魔力操作や保有量は、獣人以上とは一般の説だが。
「威圧感に必要なのは、量より質って聞いたワ。」
魔力量があれば…
「おっきく見える?」
セリの背は伸び止まってはいないが、ここにきてとても小さいと感じる。種族の差が大きい上に、栄養不良気味だったセリの期待値はまだある。
「んーちびかなあ。」
「大きくなるさ。」
勢いのないカナンとロードの言葉があっても、まだ成長を望む年頃のセリだった。




