6-デザート
前々から、『教会には顔を出したい』とセリは言っていた。育った場所である運命神を祀る。行き場のない子を育てる孤児院でもあった。
既に、北の砦に連れてこられた経緯も聞いている。
“今の時期なら動ける”その許可どりでもあった。
「僕も興味あるな?」
キースは思惑も含ませる。
セリの望みはただ無事を伝えに帰ることだ。
その持っていた能力、知識が周囲に人間の影響ということは…
会えばわかるかも。運命神関係なら接触しても煩くはない。
打算だった。
「雪の行軍で、やっちゃいけないことも知りたい。
砦での交渉は、私がする。」
堂々と言った発言は、12歳には見えなかった。
独りで行くという選択肢は取れないので、それなら手伝ってもらえるところは頼む。ちょうど良い機会だった。
「カナンはどうするの?」
ロードの褒賞の時は、食事に気を取られていたセリが興味を示した。
「オレはねー、任務内容の変更。」
その答えに、
(護衛ではなくなるかな)と、少し寂しく感じる。
「後のお楽しみ」
顔を近づけてこっそりセリへ囁く楽しそうな声に、何か企んでいそうだ。
ロードに向き直って離れた姿の、後ろ髪が少々凍っていた。
ガタッとロードが立ち、セリを持ち上げて移動。
席に座ると、目の前の席に団長。
“困った顔が似ている”
と発見し、ロードの膝の上にセリがおさまった。
見計ったタイミングで、デザートが運ばれてくる。
果物が入った透明なスライムが器に入り、
小さなケーキが添えられてかわいいサイズだ。
椅子に座っていない残念さより、甘い物に気持ちが持っていかれるセリに
(子供だな)と再確認する騎士と兵士。
(いいのか?)と落ち着かない若者。
いつも通りと慣れた、メンバーが居たのだった。
そんな事になっている事など視界に入らない。
ビターチョコレートとくるみ
小さなケーキ、黄緑色?
デザートの皿をじっと眺め、味を想像した。
「アラ、移動しちゃったのネ?」
シュルトが運んできたのは、セリ用のデザートスプーン。
ロードの近くに置き、“給餌行動”の形になる。
自然と自分のものも与える、
増えたので良いやと温順しく従った。
美味しい!
という顔だ。
好きに食べることにした。
席がひとつ空いたが、話題はそのまま報償の話だ。
団長は、医療塔への食事内容を増やす事。
オッサンと呼ばれた部隊長は、ロードへ訓練の参加を希望。
新兵は意外な事に、酒の解禁を願い出た。
「お酒、飲めるんだ。」
獣人社会では15歳以上が大人とみなされるらしい。人間とは、一年差がある。
「暇を持て余す。待機だと特に。」
議長は思い出すように言った。
「以前、酔った新兵が城壁を破損する事件を起こしてな。
それから禁止にしていた。」
「暇だとろくなことを考えないね?」
暇か。セリが居た北の砦でも、外に出られない状況で退屈と戦っている男達が居た。
「砦では盤上ゲーム、運動とかしてた。」
「訓練ではないのか?」団長が聞く
「身体を動かす試み。『まだ仕事があった方がマシ』って。
イベントを企画してた。」
外に出られないのは鬱屈がたまるその対策だ。
本を読むも、本そのものが少なかったのでセリもそこそこ参加していた。
「お菓子作りをして貰ったり」
「兵士がか?」
イメージに合わなかった。
「だって暇だし。ご褒美付きは大事で
おじさん達でも、賄いや一品付きで仕事してくれた。」
仕事を振った方の経験談だった。
お茶を飲み、満腹なセリは眠気にボーっとしてきた。
緊張がとれ、模擬戦に出るという大役も終わった。
その様子を見て、議長は早々の解散を告げる。
食事会は終了、
部屋へ帰る事になった面々の懇談は果たされたと思われる。




