2-準備
「アラ、その格好じゃ変ヨ!上着だけでも着替ましょう?」
そう声をかけたのは商人の男、シュルト。
セリの世話焼きを内々に頼まれ、その細やかさで信用を得ている。
模擬戦で傷ついた服は、食事会としての場には相応しくない。
特に最終戦を戦った獅子の獣人は、地下訓練を覆い尽くした氷の魔法で
裂けてしまっている部分も多い。
その肌にあった凍傷は綺麗さっぱり治っているが、服は治らない。
シュルトと一緒に来ていた兎獣人の騎士も、上着を用意している。
全員が上着だけ着替える中、セリは兵士でも騎士でもないため、
着替えもなくちょっと羨ましく見ていた。
「要らない。」
ロードが拒否をするも、シュルトに何か言われたのか
結局、着ているようだ。
もう一方を見ると、それぞれのサイズが大中小と揃っている。
ささっときた、新兵は落ち着かないように肩の位置を気にしている。
犬獣人おオジサンは、堅苦しいなと言った雰囲気で立て襟を緩めた。
団長は世話をされるのに慣れた様子が、貴族を思わせた。
肩に少しパットの入った礼儀用のジャケットは、飾り紐のある騎士服だ。
セリが着るわけにはいかない。
(だって騎士じゃないし。)
仮の住民でもある立場なので、羨ましい気持ちに蓋をした。
“ちょっとオシャレしての食事会”セリの格好だけ、決まらないのは少々寂しい。
誤魔化すように視線を変え、狼獣人の尻尾を眺めて、いた。
獣人的には、ちょっとアレな視線である。
「セリちゃーん。えっちぃ」
カナンから、ぐしぐしと頭を撫でられる。落ち込んでいるのを悟られていると思われた。
人族的には、おしりを眺めているくらい失礼な視線なのだが
やはり、『もふっとした長めの尻尾』が気になるセリだ。子供なのでお咎めなしである。
チラ見くらいならセーフか?感覚が優れている獣人は、視線に気いているに違いない。
そんなやりとりをするくらいには、仲が良いが最初は監視として選ばれたこの男。魔力も技も練度が高い。集団に馴染まない問題のある男とも見られていたのだが、この態度の変化に驚く者も多いだろう。
“人の子を特別視しているのか?”
“いや、演技だろう”
カナンが所属している、兵士の情報部は静観する姿勢だ。
セリの近くに、監視を置く必要性がある。
『竜人の番』であるという事実より、その怪しさからか。
騎士からは、人族のスパイだと警戒されるも決裁権を持つ議長などには庇護者として扱うように言われている。
人族の国とは武力衝突から、誘拐の疑いまできな臭い処。
その思惑に加え、竜人の対抗戦力の1人にも数えられているカナン。
『氷の竜人』ロードの今回の参加は、イレギュラーに当たる。その暴走があった場合の止める役。力技で壁役になり、その合間に大魔法での無力化を想定される。
その大魔法を放つ役目が、キースだ。
議長にも可能だが、彼の火魔法のが相性が良い。
そのロードが、奇跡的に自身の番を持ち帰り事態は混乱した。
人族である事。隣国に国は獣人の差別が酷いと聞く。
住民にも間諜ではないか?と囁かれる。
その視線は、疑心に満ちていた。
ロードの番を独占したいという気持ちが出て、囲い込みの状態になったのも疑惑を加速させた。
今回、そんなセリの戦う姿に、どんな評価があったのか?
獣人は本能から、強者を敬う。
その力を見せ、治療の補佐もしたセリに悪感情ばかりを抱いてはいられない。
対戦相手の3人はそれそれの気持ちをぶつける機会となる。
早く堅苦しい食事会を終わらせ、解放されたい気持ちもあるが…
なんとか席につき、上品なメニューであるが、味は大いに期待できるものだろうと食事を運ばれるのを待った。




