第四十七話 最終戦
幾重にも結界が離れ、土も平らにならされた地下訓練場を高い位置から見る。
セリはロードに送り届けられ、観覧室にいる。
「オレも居んだけど?」
カナンを護衛役に、離れ難い様子ながら
地下訓練場に1人、戻った。
既に、対戦相手の獅子獣人団長が座っているもが見える。
そこを通り過ぎ、2人の距離のように会話などないようで
ただ待機している。
「椅子にどうぞ」
カナンが勧めた椅子は、先程来た時にはなかった。
豪華な椅子2つの隣。
「やあ、いい試合だったね?」
キース様の隣であるが、距離があるのでそこまで緊張しなくて良いだろう。
「良い腕だった。誰に習ったんだ?」
議長のアクレイオスに問われ、
「教会に来ていた狩人と、兵士にも」
曲打ちは兵士の方から、教わった。
「基礎がしっかりしている。」
弓にこだわりがあるエルフからの褒め言葉に嬉しく、口角が緩んだ。
飲み物をもらい、セリは観戦の構えだ。
軽い食べ物も出され、見ると配膳してくれたのはシュルトだった。
「カッコよかったわヨ!」
「ありがとう」
良かった。無様は晒さなかったらしい。
シュルトとカナンも少し後ろ、簡易な椅子に座った。
整備していた兵士と衛生兵まで立ち去り、
2人が佇む地下訓練場の中央。
音もない緊張感。
観戦している者達は、2人がどう動くのか?
その予想ができず、瞬きなしで見逃さないという気概だったが。
色が変わっていくのが分かる。
土の色から翠色に…
氷の世界になっていた。
観覧席で見ていたセリは立って近づき、ガラスに手を触れてみる。
「冷たい」
人影がわかる程度に曇ったそれは、ヴィジョンの魔導具ではなく
透過して映し出している。この観覧席での特注品だった。
直接、中の冷気を伝えたが人影がわかる程度には見えた。
ヴィジョンの方は、凍りついてしまっていて氷しか見えないだろう。
しかし、音は響いている。
ガリっと氷の削れるような音
バリンと打ち付けられた氷石
限定された地下空間で、風の音が巡っているのか
音が立て続けに鳴り響き、2つの影が激突する。
「見えないねえ」
キース様がのんびり紅茶を飲む
ペタリとガラスに張り付くように見ているセリに、
「多分だけど説明しようか?」
囁いたカナンの声に頷く。
(耳が良いと分かるのかな?)
地下訓練場にはない氷柱が支配した。
薄い影が飛ぶが、氷なのか人なのか?
「寒いわネ」
シュルトの用意していたらしい暖房具が設置される。
(持ち運べて便利そう)
極北の城に位置する地上を持ってきたような寒さ
しかし、限定的な地下訓練場ではその厳しさもなく
見えない戦いの決着をのんびり待って
ぬくぬくとしている良い身分に加わるセリだった。




