番外編 裁定
キースと議長
はお茶を用意させ、下がらせた。
夜の更けている時間では、仕事よりも会話が主だった。
権力を持つ者が2人。
城の危機を防ぐ、最大の武力でもあるのだが。
“竜人とその番の扱いで壊滅”
実現してしまうかもしれないその未来に繋がるのは、避けたい。
「許可するしか、ないんじゃない?」
「しかし!セリも入っている。」
提出された書類には、騎士団での手合わせの希望。
これ自体は例年ある行事で問題はない。
こんな土地だ。享楽もないのでは士気にも関わる。
それ故の団員から選出された組み合わせでの模擬戦は、お祭り騒ぎになる。
訓練場での決闘のルール
それが映像で見れるようにしてあり、防御壁付きだ。
騎士の腕前も見せられ、この城での一大イベントと言っても過言でない。
その選出に、ロードを指名してきた。竜人の力を測りたいと見える。
しかし…
セリも入っているのが、決めかねる理由だ。
「軍人でもない子供を手合わせに出すとは」
セリの魔法技術は目を見張るが
戦いの経験、体格は常人の者。それより小さい。
新人だろうが、獣人で鍛えられている。あの細いセリの怪我に繋がる心配だ。
「んー。まあロードだけだと、納得しないだろうね。」
議長の戸惑いもわかるが、これは避けるより打って出た方が良い。
セリの能力は心配していない。
冷静な判断や、狩りの実績から
新人となら、一方的なやられっぷりはないだろう。
「問題なのは、ロードの過剰反応だ?」
番を傷つけられれば怒り狂うという。
「セリのノリ次第だけど、ね?」結構、好戦的な性格な気がする。
(普段はそういう部分を見せないようにしてそうだけど?)
しかし。直接戦ったら後は納得するって、獣人って単純。
“力こそ全て”は言い過ぎだが、概ね合っているでしょ?
話し合いの間には、紅茶は減る。
酒が香り、温かなお茶は心を宥めた。
仕事の終わりにもつい仕事の話になる。
酒でも飲みながら、苦々しく考えを巡らせる。
“セリへの嫌がらせ”はロードの攻撃に繋がる。
「怪我させた日には…」
『城が崩壊するね。』
番の問題は各所で語り継がれる。
ここ数十年で、衝撃的な事件が多くあったからか
獣人で話が行き渡らないらしい。
今世代の子達は、番の話をしたがらない傾向にあるらしい。
エルフでも運命の番の話はあるが、
本能が強い獣人ほど破滅的なものは少ない。
その違いだろうな。
「ロードが怒り狂えば、ここは氷の城になるんだろうか?」
「そうなれば、火魔法で溶かさないとね?」
キースの魔力で全て溶けても、後片付けは大変な苦労だろうな。
風の防壁を展開させる自分。想像してため息とともに
「竜人を宥める役は誰がやるんだろうな?」
「さあ。セリじゃない?」
子供に頼るしかないという状況を思い出させた。
その前に、出来ることをしようと心に決める議長だった。
“力を示せ”
3人での対抗戦をする運びになるのだった。




