振られる練習
「千春ちょっといいか?」
「…何かしら?勿論その話は、私の1分1秒という高潔かつ貴重な時間を割いてまで価値のあるものなのよね?いいわ、かかってらっしゃい。喜んで割かせてもらうから早く言いなさい。hurry up!hurry、hurry」
「おっ…おぅ。というかなんで早口よ?まぁいいか…この間、野球部で甲子園まで行ったピッチャーであるイケメンの菅野からこの間『男がモテるコツは、振られるのに慣れること。だからとりあえず、幼馴染に理由を説明して、告白してから振られるという一連の流れを体験してみろ』って言われたんだけど、千春が良かったらでいんだけど、俺が告白するからその告白を振って欲しいんだけどいいか?」
「…なんて素晴らしいアドバイス…菅野くんには夏のお中元がわりに桃缶とハムのセットを送って甲子園を頑張ってもらいましょう。…時に聞きたいのだけど、振られるという体験に慣れたいということは、もしかしてモテたい願望があるのかしら?あった場合は、少し貴方と『お話』する事が追加されるのだけど…」
「…?いや、そんな願望はないぞ?とりあえず体験しておいた方がいいなら、体験しておこうかと思っただけだけど。」
「なら問題ないわね。…コホン…さぁ、いつでもかかって来なさい!」
「これってそんなに身構えることかな?なら行かせてもらいます……好きです付き合ってください。」
「はい喜んで!」
………
「「…んっ?」」
「いや、何でそこで千春まで首傾げてんの?というかこれって振られる練習なんだけど…」
「…そうだったわね。…そうね…あえて言わせてもらうなら、振られなかった理由を考えるべきだと思うの。今の告白の仕方では、『振りたくなる気持ち』にはなれないわね。まずは、付き合って欲しいなら『名前』をちゃんというべき。ではもう一度。」
「『振りたくなる気持ち』か。なかなか難しいんだな。…分かった……千春…好きです付き合ってください。」
「そんなに私の作る味噌汁を毎日飲みたいというのね。仕方ないからそのお願い、承らせてもらうわね。」
………
「「…んっ?」」
「…だから何でそこで千春も首を傾げるのさ?今のも振るとは違うくない?…あと、いつも美味しいお味噌汁ありがとうございます。」
「ちゃんと言葉に出すお礼は大切よね。どういたしまして。…それとさっきのセリフのダメ出しとしては、もう少し内容を工夫するべきだと思うの…『好きです付き合ってください』だけではありきたり過ぎだから…そうね…終わりにもう一言添えてみるべきだわ」
「一言添えるか…よし!…千春…好きです付き合ってください。これからもそばに居て欲しい」
「仕方ないわね。これからは半径1メートル以内から離れることを禁止するわね。あと他の異性との会話、接触、空気のやりとり等々諸々を禁止と言ったところかしら。」
………
「「…んっ?」」
「いやもう首を傾げることにはツッコミいれないからな。というか禁止行為の内容厳しすぎない?そういえば会話で思い出したけど、そろそろ俺もキッズ携帯からスマートフォンに変えたいんだけど、電話先が実家と千春だけしか入らないし、ネットとかしてみたいんだけど…」
「あら厳しいかしら?…ちなみに携帯電話については却下!…まだ貴方は二十歳を迎えてないのだから『kids』でいいのよ?それと貴方のために、あくせくと汗、水、脇汗を流して働く御父様の負担をこれ以上増やすわけにはいかないは。……それにネットなんて…ネットは広大な世界なのよ。どこにエッチな写真の魔の手があるのかわからない、そんな世界はまだ貴方には早すぎるわね。」
「脇汗だけなぜか別の扱いなのはツッコミを入れるべきなのか…という最後のあたりはなんて言ったの?良く聞こえなかったんだけど?」
「子供の貴方は知らなくてもいいの。それより今日御母様に晩御飯の材料を買って来るようにと頼まれたから貴方もついて来なさい。」
「へーい…付いてきますよ。…それと今日出来れば晩御飯はカレーに…ってちょっと待てよ」
◇◇◇
この年の春を迎えてから、とある2人以外を除いてのクラスの生徒の好きなドリンクが苦めなブラックコーヒーになりました。
2人のちょうど真後ろの席に座る僕、田中裕介は見逃さなかった彼が告白するたびに彼女が作動させてたボイスレコーダーを…
あれをいったい何に使うのだろうか…
水筒に入れておいた、コーヒー豆とお湯を4:6の割合で作った珈琲を一気に飲み干す…
……
5:5にした方がいいのだろうか…ふぅ…と一つ溜息が漏れる。
今夜もまた眠れそうにない…