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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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春日局が病に、、、

戦国時代を生き抜いた強靭な体も、積もり歳月

よる年波には勝てず日に日に弱って行くばかりだった。

その上 医師の奨める薬には見向きもしない。

家光も心配して見舞いに訪れるたび、自ら薬湯を

持って奨めるのだが、局は神仏との誓いが有るからと

頑として受付けない。こうまでして薬を断ち医師も

寄せ付けない有様では永らえる命も永らえぬ。

家光も第二に母足る局と、永別の日も近いと悟るの

だった。その頃 チサはどうしていたかと言うと

主のいない局の部屋で成す術も無くうつうつと日を

送っていた。側に付いて看病したくても中臈の身

城内とは違い勝手に行くことは許されない。

家光と閨を共にする時 近況を聞くのが最大限に

許される事だった。そして降り注ぐ陽射しが強さを

増した頃 局の容態はいよいよ悪化の一途をたどり

燃え尽きる蝋燭がその前の一瞬 炎が一段 明るく

なるように死を前にした病人も一時期

持ち直す事がある。あるいは中臈 お夏の懐妊が

心を明るくさせたのかも知れない。そのような時

「今朝は少し心持ち良い。襖を開けて風を通して

 たもれ」と その日局は病みさばらえた身体を

脇息にもたれさせて、しばしの間 陽光に輝く庭の

若葉を愛しげに眺めていたが「伊豆殿はもう 出仕

なされたであろうか」と 側の侍女に問う。

「早速 伺って参りますが」 「そうしてくりゃれ

 もし登城の後なれば近い日に春日がお目にかかり

 たいと申していたと伝えてくれるように」

「かしこまりました」 答えて侍女はすぐさま使いの

者を伊豆守の屋敷に走らせるが、その使いが戻るより

早く、その人の駕籠が玄関脇きに着いた。彼は今日

非番である事を幸い 幼い時からご恩こうむりし局を

親しく見舞いたいとやって来たのだった。

侍女から知らせを聞いた局は 「神仏がわらわの残る

時を教えたもうたか」と 低く呟いた。

病間に通された伊豆守は、そこに起き上がっている

局を見て、驚いたように眼を見張り 「思ったより

お元気なそのご様子 伊豆は安心つかまつりました」と

ニコニコ微笑む。その言葉に局もかすかに微笑んで

「呼ぶまで下がっていや」と 侍女達を遠ざける。

その様子に伊豆守は局が自分に何か言いおいて

置きたい事があるらしいと察する。 人払いをして

二人切りになった部屋で遠慮なく、しとねの側まで

進み寄った。局はしばらく彼の精悍な顔を見つめて

いたが、やがて弱々しく微笑んで

「もう いけませぬ。この病では後 ひと月持ちます

 まい」と言った。「何をお気の弱いことを 日頃の

お局様のお言葉とも思えぬ」 「自分の身体は分かる物

 上様の御代栄えて、今となっては思い残す事とて

 ありませんが、ただ気掛かりは竹千代君の事

 あのようにご病弱なのが悔やまれます」

「じゃと言うて さしたるご大病も無く」 「今までは

そうであった。それはこなたやそれとなく意見を言うて

 くれる者があったればこそのなのじゃ」

「ほおう それはまた誰が」 「先日 乳人の一件での」

「おチサ様が それはまた どう言うことで」事情を

知らない伊豆守には合点がいかない。


続く

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